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「……は?」
 こればかりは木瀬も首を捻ったが、直ぐにアレを思い出したのか冷や汗を流す。
 まさか、知ってるのか。いやそんなわけないだろ昨日の今日だぞ。
 しかしそんな俺の希望を打ち消す白河の消えそうな声が、小さな涙と共に零れた。
「知ってます……昨日の放課後、柳先輩が木瀬先輩にしたこと……」
「何故!?」
 全力で聞き返したら、あの時と同じ台詞を言ってのけた。
「好きな人のことは、何でも知りたいに決まってるじゃないですか」
「だからそれで終わらせんなよ俺のプライバシー!」
 俺はともかく木瀬に悪いことしたなと、隣に視線を移して、ハッとした。
 俺が木瀬を止めるよりも早く、奴は白河を締め上げていた。
「あう……!」
「木瀬止めろッ!」
 片手で襟首を捻りあげ、無表情で白河を壁に追い詰める。そして女に囁くような甘い声で、耳打ちした。
「白河、その事はもう忘れようか……?」
 でっかい目を恐怖に染めたまま、白河がこくこくと頷くのを確認して、木瀬が手を離す。
 解放された白河がへたりと座り込むと同時に、木瀬は打って変わっていつも通りの緩い笑みで手を差し伸べた。
「無駄な心配はしなくて良いって事だよ」
 いやいや、今の本気だっただろ……。
 久々に木瀬の“死神姿”を見て、不覚にも鳥肌がたった。
「……」
 つーか俺と噂になるのがそんなに嫌なのかよ……。
「――ん?」
 一瞬、浮かんだ自分の考えに疑問符。いくらこの学園では珍しくないとはいえ、普通に嫌だろ、男だぞ俺達。
 白河と絡むようになってから俺の思考麻痺してきてんのか!?
「……あーっ、何かモヤモヤする! 木瀬!」
「んー?」
「次の日曜ナンパ付き合――グハッ!」
「死ねカス」
 最高の殺し文句と共に、飛んできた蹴りに意識が飛び掛けた。
 白河が真っ青になりながらおろおろしてるのが可笑しくて、つい笑ってしまった。

   ◆ ◆ ◆

「白河って、何であんな俺に拘ってんだろ……」
 珍しく白河が迎えに来なかった放課後、寮に帰りながらふと浮かんだ疑問をそのまま口にしたら、何か余計に解らなくなってきた。
 話したことはない、多分。見たことある気はしたけどそれも廊下ですれ違っただけだろうし。
「……」
 何となく白河の部屋の前を通った時、怒鳴り声がした。



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