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8
「……そうか。だが僕は、いくらでもあいつらを潰すことができる! こんなのはその場しのぎだ!」
「これを見ても、それが言えるかしら?」
 マリナは“薬品”を手に、微笑んだ。
「……お前!」
「これがなくなれば、北条家が行っていることができなくなる。そうなると、あなたも旦那様たちも、困ってしまうわよね?」
「それが狙いか……!」
「悪くない取引でしょう?」
 マリナはビンの蓋を外した。
「もう二度と、あの子達に手を出さないと誓いなさい!」
「くっ」
 渋る北条が頷きかけた、その時。
「なつき! マリナ、まって!」
 犬が、廊下の窓を破って現れた。
「あなた……どうして!」
「なつきに、言いたいことがある」
「……なんだ、犬の分際で、随分と偉くなったな」
「偉いとか、劣るとか、そんなことは言いたくない」
「……?」
 北条が訝しんで見つめると、犬は無理をして笑って、手を差し出した。
「俺、ずっと、なつきと友達になりたかった……」
 最初から、それが犬の願いだった。
「なつきはいつもイライラしてて、怖いことするけど……お俺に居場所をくれた、最初のご主人様だから」
 怖くても、痛くても、きっといつか、俺やすずに笑いかけてくれると信じて。
「誰かが、なつきの笑顔を、取り戻さなきゃいけないんだって、ずっと思ってた。小さい頃は、なつきちゃんと笑ってた」
 親の前で、一度だけだったが、子供のように笑う主人の姿を見た。それがどうしても、忘れられなかった。
「だから……だからさ、俺とすずはここを出て行くけど、俺は、なつきの友達になりたい……」
「……、それは――」
 北条の瞳が揺れた。同時に廊下も騒がしくなる。
 マリナは、これ以上は危ないと判断して、らぶを無理やり連れ出した。
 北条は、追って来なかった。

 それから、気がつくとあの家に戻っていた。
 目を覚ましたらぶに三人が飛びついて、しばらくしてマリナ先生が連れてきてくれたのだと聞いた。
「あの人は、北条家でまだすることがあるって言ってた……」
 はるまが拳を握る。なにかを押し込むように。
「あの人、俺たちの母さんなんだ……」

 それから俺たちは、はるまとなつきの過去を、初めて知ることになる――。



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あきゅろす。
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