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7
「っあぁ!」
 転がるらぶの背中には、無数のあざが見えた。それは出会った時よりも増えていて、さらに痛々しいものだった。
「馬鹿な奴だ、自ら殴られに来るとはな。愚かとしか言い様がない」
 ブチッ、と。
 頭の隅で、何かが切れる音がした。
「お前――!!」
「春馬様! 待ってください!」
 裂くようなその声に、一瞬我に返る。
「兄ちゃん! らぶ!」
 夏希の声もした。二人とも、無事だった。
 その事実に、湧いていた感情が一気に冷めていくのがわかった。
「兄ちゃんに何をしたこの外道ー!!」
「――あ」
 兄の拳の次は、弟の懇親のケリを喰らう北条。
 この光景、前にも見たな……。
「春馬様、らぶ! 無事でよかった……」
 すずが駆け寄って、俺たちにすがりつく。
 その小さな体を、らぶとふたりで支えた。
「兄ちゃん、こっち! 走って!」
「ああ!」
 夏希に導かれるままに、最後の力を振り絞って駆け出した。その後ろを、北条も追ってくる。
 転がるように一階に降りると、白衣を着た女性が立っていた。
「やば!」
「大丈夫、味方だから!」
 夏希の言葉に困惑しながらも、その女性は非常口のドアを開けて手招きした。
 藁にもすがる思いで三人を先に行かせると、北条が追いついた。
「篠宮! 裏切ったな……!」
 ――え?
 そのセリフに振り返る。
 女性の顔は、遠い昔に見たその人、だった。
「残念だったわね、無月様。私の研究成果と子供たちは、たとえ雇い主でも守りぬくわ」
「かあ、さん……?」
「行きなさい」
 白衣の人は、俺の背中を押した。
「母さん!!」
 投げ出され、すぐに引き返そうとしたけど、鍵は開かなかった。
「くそ……!!」
「兄ちゃん早く!」
 庭が騒がしい。見つかるのも時間の問題だ。
 俺は唇をかみしめて、振り切るように走った。
 もと来た塀を登る。
「急げ!」
 らぶが中々飛び越えてこない。嫌な予感がしていると、らぶが塀の向こうから叫んだ。
「すぐもどる!」

   ◆ ◆ ◆

「なぜ、逃がした」
「子を守るのは親の勤めよ」



あきゅろす。
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