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6
 らぶを連れてどうにかこの部屋から脱出できないかと試みてみたが、この部屋はどうやっても開かないようだった。
 窓には鉄格子、空気は入るがそれだけだ。
 腕がやられたのはまずい。聞き手にまだ、痺れみたいなのがあって、うまく動かせない。
「はるま、もうやめ……」
 止めるらぶを横目に、ドアに何度目か解らないケリを入れようとした時だった。
「まったく、庶民は乱暴な生き物だ」
 忘れもしない、あの憎たらしい声がした。
「北条――無月か……!」
 怒りで声が震える。らぶは俺の服にしがみついた。
「貴様にいい話を持ってきた」
「ああっ?」
「調べさせてもらったが、君たちは兄弟二人暮らしだそうじゃないか」
「ああ――親は死んだ。それがどうした」
 父さんは死んだと聞いた。母さんは行方不明の期間が長く、親戚もみんな死んだものと判断した。
「君たちが犬と猫を我々に返すと約束してくれるなら――君たち穂村兄弟には、一生苦労しないだけの金をやろう」
「なっ……!」
「悪くない条件だろう?」
 ドアが音もなく横にスライドして、そこに現れた北条は、俺とらぶを交互に見て、満足気に笑っていた。
「はるま……」
 ぎゅ、とらぶの指に力がこもる。俺は心配に見上げてくるらぶの体を、右手でゆっくりと離した。
「! はる……!」
「らぶ、ごめんな――」
 視界の隅に捉えたらぶの顔は、びっくりしていたけど、次の瞬間こくんと小さく頷いた。
「ははっ、所詮は金だな! だから庶民を潰すのは面白くない! 金ですべて傾く、すべて失う、すべて……!」
「うるせぇよ!!」
 高笑う北条に、力が戻っていた腕で拳をお見舞いする。
 北条は不意を付かれ、廊下に派手に転がった。
 俺も、あまりの激痛にその場に膝をつく。
「誰がそんな条件飲むかバカ野郎! 俺たちを、甘く見るな……!」
「くそ、……僕に、僕に手を挙げたな……!」
「はっ、親父にも殴られたことがない、かよ?」
 皮肉を込めて言うと、北条がカッとなって殴りかかってきた。
「黙れ――! 僕に逆らうな!」
「はるま!!」
 何が起きたのか解らなかった。
 殴られる――そう思った瞬間、らぶの背中が見えて、その小さな体が一瞬で吹き飛んだ。



あきゅろす。
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