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「もう少ししたら捜索が敷地外に移って、屋敷の警護が薄くなると思うから、それまではここにいていいわよ」
「あの、おねーさん……」
「なあに?」
 そんな優しい笑みで首をかしげられても、この状況は理解できない。
「どうして俺に犬耳を付けてるんでしょうか……」
「似合うからよ」
 そんな当たり前のように言われても以下略。
「次の仕事のインスピレーションになればと思って」
「それってどんな仕事なの」
「それを聞いたら、あなたは私に失望するでしょうね」
 急に声のトーンが寂し気になって、外を眺めるマリナを見上げる。
 夏希に気づいたマリナは、取り繕うように微笑んで、夏希につけていた犬耳を外した。
「マリナ! マリナ!」
 部屋のドアを荒々しく叩く音に、マリナは夏希を素早く隠した。
 それから、急いでドアに向かう。
「誰?」
「俺だ、久坂だ」
「ちょっとまって」
 鍵を開けると同時に、久坂と名乗った男がマリナの肩を掴む。
「大変だ、猫が“薬品”を持って逃げ出した!」
「えっ!?」
 マリナも驚きの声を隠せない。
「至急、あなたも捜索に加わるようにとの命令だ。準備が出来次第、科学班と合流するように」
「……了解した」
 それだけ聞くと、男はその場を離れた。マリナはパソコンを軽く操作して電源を切り、机から鍵を取り出した。
「私も行かなくちゃいけないみたい。これはあなたに預けるわ、もし猫がこの部屋に来たら、私が戻るまでここに隠れていて」
「そんな、どうして……」
 どうしてここまでしてくれるの、そう聞こうとしたら、マリナは優しく微笑んで、夏希の頭を撫でた。
「これが、今の私にできる罪滅しだからよ」
 その意味を理解するよりも早く、マリナは部屋をあとにした。

 しばらく部屋で隠れていると、廊下の方が騒がしくなった。
 すず、どうか無事で……!
 助けに行きたい気持ちを抑えていると、複数の足音が去ったあとに、部屋のドアがゆっくりと開いた。
 それから、あの弱々しい声で。
「マリナ、せんせ……」
 すずの声が、した。

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