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俺達には、ここだけが“帰る場所”なんだ。けれど……母さんには、他にも帰る場所があって……。
「おかーさんかえってくるまで、あそんで」
何も疑っていない弟を抱き締めた。母さんと違って、夏希はとても温かい。
「いいよ。お母さんが帰ってくるまで、俺が一緒にいる……夏希を置いてどこにも行ったりしない」
――あの日の事を夏希が覚えてるとは思わない。
けど……あれから、誰かが離れていくことがとても恐ろしく思えて、俺は必要以上に他人を近づけなくなっていった。
◇ ◇ ◇
朝、夏希が料理する音と目覚ましのアラームが聞こえて目を開けた。
らぶが来てから少しだけ早起きができるようになった。それまでは、夏希が朝飯作り終わってから起きていたくらいだ。
六時半……まだ出来るまで時間がある。テレビをつけたら天気予報が映っていて、軽快で可愛らしい音楽が流れていた。
コロコロしてて、元気になるようなそのメロディに、ふと笑みが浮かぶ。らぶみたいな音楽だと思っていたら。
「仔犬のワルツ」
誰かが呟いた。
「おはようございます、春馬様……」
「なんだ、すずか……おはよう」
再びテレビに耳を傾ける。気付いたすずが、目を伏せて微笑んだ。
「仔犬のワルツ――ボクの、とても好きな曲です」
「らぶが、笑ってるみたいだ……」
ついポロっとこぼれた独り言に、すずも胸の前で両手を握って頷いた。
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