[携帯モード] [URL送信]
1



「北条無月……社長の息子じゃねーか」
 あれから、すずの話していた男について調べてみたら、すぐに有名な一家だと解った。
 放課後、学校のパソコン室で画面に釘付けになっていると、急にドアが開いた。
「兄ちゃん、お待たせ」
「夏希」
 弟が学校帰りに寄ると言っていた。すずが戸締まりして家にいるから二人とも長居は出来ない。
「北条無月、見つけたぞ」
「見せて!」
 ハッとして、夏希がパソコンの画面に飛び付く。
「家はけっこう近いな……」
 あの二匹が川原まで徒歩で来れる距離だ。そう離れてないとは思っていたが。
「ここに、らぶが……」
 夏希は静かに怒りを込めて呟き、唇を噛む。
 正直俺も似たような心境だが、ここで俺まで冷静さを失ったらいけない。
「明日、すずに話して行ってみる」
「お、俺も行くっ!」
「すずをあまり一匹にしない方がいいだろ」
「……っ。わかった……」
 夏希は物分かりがよくて助かる。今よりもっとガキの頃から、夏希は我慢を知っていた。
 ――親が帰ってこなくなってから、ずっと。

   ◇ ◇ ◇

 物心ついた頃から、俺には母親の記憶しかなかった。父親はいないと聞いていた。夏希が産まれる前に、死んだんだと。
 母親はとても穏やかな人だった。料理が好きで、決して怒ることはなかった。けれど夜中に一人で泣いてる日もあることを、俺は知ってた。
 夏希が五歳になるくらいのころ、母さんは大きな鞄を持って出掛ける準備をしていた。
「どこに行くの?」
「春馬、夏希をよろしくね」
「……母さん?」
「ごめんなさい……」
 母さんは初めて俺に向けて涙を見せて、一度だけ抱き締めてから、静かに出ていってしまった。
 母さんの体は、思ってたよりも細くて、冷たかった。
 その日から、母さんが帰ってくることはなかった。
 その後は親戚の伯母さん夫婦が面倒を見てくれたけど……俺が高校に上がると、夏希と二人で暮らしたいと言う俺の我が儘を、応援してくれた。
 らぶと過ごした時間は短いはずなのに、心にぽっかり穴が空いたみたいだ……この気持ちを、俺は知ってる。

   ◇ ◇ ◇

「でか……」
 翌日が休みってこともあって、俺はさっそく調べた住所まで足を運んでいた。
 ついた先には“城かよ”と突っ込みたくなるような豪華なお屋敷。ボロ屋敷に暮らす俺からしたら殺意が沸いてくる。



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!