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3
 駆け寄るとらぶはハッと自我を取り戻したように、夏希にしがみついた。すっかり優しい顔に戻った夏希が、安心させるようにらぶを撫でる。
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
「うー……っ」
 それでもまだ怯えてる様子のらぶを背中に庇うように立ち、むくりと起き上がってる青年を睨み付ける。
「あんた誰」
(……夏希!?)
 耳を疑うとはこの事か。絶対零度の冷たさを漂わせる夏希に、兄である俺でさえ息を飲んだ。
「君こそ、誰かな。それは僕のものだ。返せ」
「嫌だね」
「……なに?」
「あんたには返さないよ」
 表面だけ笑顔だった相手も、夏希の言葉にピクリとこめかみが震える。まあ俺だってこいつに渡す気にはなれないけど。
「て言うか誰?」
「その駄犬のご主人様だ。なぁ?」
「っ……」
 話をふられたらぶがビクッと怯える。俺はその肩を抱いて、引き寄せた。
「こいつを捨てたくせに、よくそんなことが言えるな!」
「捨ててなんかない、それが勝手に猫をつれて逃げただけだ……まったく手間を掛けさせる」
「逃げ出すようなことしてたんだろ」
 この際、捨てたとか逃げ出したとかどうでもよかった。ただどんな理由があるにせよ、二匹をこいつに渡すわけにはいかない。
「……るま、なつき」
「ん?」
 らぶが小さく、俺達を悲しそうに見上げてきた。
「すずには内緒にして……すずには、会わせたらいけない」
「ああ……」
 それは解る。らぶがこんなに怯えているんだから、すずに会わせたりしたら――どうなるかなんて安易に想像できる。
「よかった……。すずのこと、よろしくな」
「らぶ?」
 らぶは一度だけ無理に笑うと、俺達から離れて青年の元に近付いていった。
「おま、何して……!」
 それを見た青年はニヤニヤと満足気に笑い、らぶの腕を乱暴に引いた。痛みに目を細めながら、それでもらぶは何も言わなかった。
「頭の良い犬は好きだ」
「……約束、守れよ」
「ああ。もちろん――」
 続いた言葉に全てを理解する。
「すずは、優しいご主人様の元で幸せに暮らせるさ……」
「ッ!!」
 足が動かなかった。その言葉が意味するのは、らぶが連れていかれれば、すずは俺達の元で暮らせると言うことだ。引き止めないと、そう思っていても、一歩も動けなかった。



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