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 観念して薄く目を開く。真っ赤になったすずがしどろもどろにわたわたした。
「ご、ごめんなさい」
「いや……良いけど」
 良いけど、俺の熱くなった息子はどうしたらいい。

   ◆ ◆ ◆

「……。どうしたの兄ちゃん、その顔」
 早朝、いつもの時間に起こしに来た弟が不思議そうな顔をして言った。
「どんな顔だよ」
「超、寝不足です」
「…………」
 当たってるからタチが悪い。
「んでもねぇよ」
「いーけどさ」
「そういやらぶはどうした?」
 最近はらぶが起こしに来るのが日課だった。辺りを見渡すが、あの元気な姿は見当たらない。
「そうだよ、らぶが見当たらないんだよ!」
「はぁ!?」
「どこに行っちゃったのかな……」
 あのらぶが……? 今まで、何も言わずに居なくなるなんて事なかった。
「とりあえず近くを探してみるか。すずは留守番してろ」
「は、はいっ」
 眠気眼のすずに指示を出して、俺達は家を出た。
「犬はどこに行っても本能的に縄張りに帰ることが出来る……けど」
「――それってさ」
 夏希が青冷めた顔で俺の裾を握った。
「前のご主人様の所にも、帰れるってことだよね」
「……! それは」
 それはないだろう。その一言が、何故か喉の奥でつっかえて、出てこなかった。あのらぶがいなくなるなんて……理由はそれしか思い浮かばなかった。
「くそ」
“なつきー! はるまー!”
 らぶの弾んだ声が聞こえてくる。まさか、もう会えないなんてこと、ないよな……? 最悪の想像までしてしまった。
“はるま!”
 そう、こんな風に少し高い声で、楽しそうに名前を呼んで――。
「はるまー!」
「え」
 咄嗟に振り返ったら、公園の小川の側にらぶがいた。安心したのもつかの間、不安顔のらぶを引き摺る長身の影が見えた。
「らぶ!」
「あいつ、まさか……!」
 助けに行こうと動いた瞬間、隣の弟がキレの良いスタートダッシュを見せた。
「らぶを離せ!!」
「なッ……」
 弾丸のような体当たりを見舞えば、青年はその場に転がり、らぶはポカンと放心している。そして夏希は、ゆっくりを起き上がり、今までに見たことない冷めた顔で、何かを呟いた。
「夏希! らぶは!?」
「大丈夫ー!」



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