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「……珍しいな、お前が何かに執着してるの」
「そーか?」
 自分じゃピンと来ないけど。
「初恋のお前に言われると複雑だなぁ」
「またそれー? やっぱ相変わらずなんだ」
「本気なのに」
「はいはい。またね」
 掛かってきた時と同じ様に、あっさりした言葉で通話が切れた。あっちゃー、もっと話してたかったのに、からかいすぎたな。
「本気なのに、なー」
 冗談としてしか言ったことないけど、俺の初恋は伊織だった。しょうがない、初めて親に連れてかれて“従兄弟”に会った瞬間、俺は伊織を女の子だと思ったんだから。
 男と知ったときの絶望ったらもう、思い出すと悲惨だな、小学生の俺。おかげでこんな見境なくなっちゃって。

   ◆ ◆ ◆

 自分の家が見えてきた頃、丁度春馬が隣から出てきていた。
「なんだ出迎えか? 男に来られても嬉しくもなんとも……」
「あっ、ふじわら! 帰ってきたのか!」
 春馬の背からひょっこりとらぶが手を振っている。
 やばい、ずきゅんときた。すごい可愛い。なにあの生き物!
「らぶ、ただいまー」
「うわぁ!?」
「だからドサクサに触ってんじゃねぇ!」
 春馬の見事な足技がお見舞いされるが、らぶが可愛いから耐える。うん、今日も見事な犬耳だ。食べちゃえ、えいっ。
「ひゃあ……!」
 耳をぱくんと食べたららぶがフルフルと震えて真っ赤になった。しかしそれを堪能する間もなく、春馬の渾身の拳で引き剥がされる。
「お前な……」
「悪い悪い。もうしないって」
 ニコニコ笑顔で言ったら軽く殴られた。え、何で殴られたの、俺。
「家に入るぞ、らぶ」
「あ、うん! またな!」
「はいはい。って何で出てきたんだお前ら」
 てっきり何処かに出掛けるのかと思ってた。そしたら春馬が不機嫌そうに舌打ちして言った。
「……らぶが、そろそろお前が帰ってきそうだって言ったんだよ」
「え――」
 そのまま閉められた春馬の家をしばらく眺める。
“珍しいな、そんなに何かに執着してるの”
 伊織の言葉が浮かんだ。確かに執着してる、かもしれない。どんな美女でも三日で飽きたこの俺が。
「……やばい、かも」
 俺のモノにしたいなんて、初恋以来だ。



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