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 バイトの帰り、すっかり暗くなった街を歩いていると沢山の“夜の人”があるいている。着飾った女子、これから仕事の人達、仕事帰りだからこそこれからお楽しみの男達。
「ん、あれ」
 気のせいだろうか。今、人混みの中にらぶが居たような……。
 そんなわけないと思いつつも、何だかどうも気になってその背中を追う。少年の姿は既に見えなくなっていたが取りあえず歩いてみた。
 少し歩いたところで人混みが極端に減ってきた。見渡してもらぶの姿はない。
「やっぱ気のせいか……」
 元来た道を帰ろうとしたら、前を二組の女がフラフラと歩いていた。お楽しみの帰りらしい、これはチャンスじゃねーか。
 隣に並べば金髪の女と目があってにっこり微笑まれた。年上のお姉さんって感じだ。
「大丈夫ですか、俺が家まで送りましょうか」
「やだ〜そんなこと言ってぇ、いきなり狼になっちゃったりしてー」
「ははは、まさか――ん?」
 いきなりポケットの携帯が震えた。誰だこんな時に。名前だけ見てあとで掛け直そうとちらっと見たら、懐かしい名前が出ていて慌てる。
「やべ……。ごめん、やっぱ無理みたい」
「えー彼女ぉ? 怒られちゃうよ〜?」
「まあそんなとこ。んじゃ、気をつけて」
 軽く言葉を交わして別れる。二人は特に気にした風もなくまた歩き出していた。俺は建物の壁に寄りかかって通話を押す。
 懐かしい、あの緩い声が聞こえた。
「今、忙しかった?」
「いーや。大丈夫。それより久々だなー、伊織」
 従兄弟の朝比奈伊織だった。小さい頃はよく遊んでいたが、伊織が寮制の高校に行ってからはすっかり音沙汰がなかった。
「最近声聞いてないなって思って」
「なに、寂しかったのか? 今から会いに行ってやろうか」
「やめて。俺そんな面倒なこと言わないから」
 互いを知り尽くしてるからこそ、こうやってよく軽口を叩ける。伊織は冗談も通じるし、色々と気負わず話せるから好きだ。
「最近さー、近所に可愛い犬が来たんだよ。ラブラドール」
「へー、犬好きだもんね?」
「いやもう可愛いとかのレベルじゃなくて、俺のモノにして一生閉じ込めておきたいくらい、可愛い」
「その子がいたら、女なんてもういらないんじゃないの?」
「いらないね」
 軽く答えたら、電話の向こうで伊織が驚いたのが解った。



あきゅろす。
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