3 「な、なぜそれを」 小牧が笑顔のままギクリと固まった。 「深影は最初から知ってたぜ。しかも格闘技全般得意らしいな」 「いや、それほどでも」 苦笑したまま気まずそうにスッと視線を反らす。 「あー、だからあんな押さえる力が強かったんだ。ほどけない筈だよねー」 続いて伊織の爆弾発言。しかし言った当の本人はケロリとしていて、咄嗟に小牧は全速力で逃げた。 「伊織……」 「お前、アイツにも喰われたのか」 「いや?」 悪気があるのかないのか、楽し気に笑う伊織。そして“会長も書記もいなくなったし、今日はこれまでだね”と言いながら生徒会室を後にした。これが目当てか。 「……ったく、何やってンだよ深影は」 ◆ ◆ ◆ 思わず受け取った束をどうしようかと、小牧は階段の踊り場で悩んでいた。何気無く捲ると、持っていたペンでスラスラと印を付けていく。 「生徒会長だったってホントなんだ」 いつの間に来ていたのか、伊織が上から覗き込んでいた。 「似たヤツなら、一年の時やってんだ。凄ぇ忙しかったから生徒会長なんか二度とやるもんかって思った」 「確かに忙しそうだよね」 「深影会長の嫌がらせなのかなこれ……」 「信頼してるんだよ」 思ってもない切り返しに驚く。伊織が隣に腰掛けて束を覗き込んだ。 「副会長さんに任せてるのも、あの人なら間違いなく正しい方に導けるって知ってるから。小牧に任せたのも、小牧なら出来るって思ったから。だから、結局甘えてるだけなんだよ、アイツ」 解りにくいけどね。そう続ける伊織はどこか愛しそうに目を細めていて、小牧はチクリと胸が痛んだ。 (幼馴染みの特権か……いつもなら凄ぇ萌える筈なのに) 気付いた時には手が動いていた。伊織がびっくりしたみたいに目を開く。濡れた黒瞳が、間近で見ても綺麗だと思った。 「ど、どしたの?」 「嫉妬した」 「……誰に、」 「言わなくても解るだろ?」 薄い桜色の唇をペロリと舐めたら、途端に恥ずかしそうに赤くなる。ホント敵わない。全部可愛い。 「小牧は、さ……」 「ん?」 「こう言うの、本当に好きな子にした方が良いよ。小牧モテそうだし、俺なんか遊びで手ぇ出したら絶対後悔する」 目を伏せて悲しい事を言う伊織は、泣きそうな顔で微笑んでいた。瞼にキスしたらくすぐったいと身を引く。 ←→ |