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「な、なぜそれを」
 小牧が笑顔のままギクリと固まった。
「深影は最初から知ってたぜ。しかも格闘技全般得意らしいな」
「いや、それほどでも」
 苦笑したまま気まずそうにスッと視線を反らす。
「あー、だからあんな押さえる力が強かったんだ。ほどけない筈だよねー」
 続いて伊織の爆弾発言。しかし言った当の本人はケロリとしていて、咄嗟に小牧は全速力で逃げた。
「伊織……」
「お前、アイツにも喰われたのか」
「いや?」
 悪気があるのかないのか、楽し気に笑う伊織。そして“会長も書記もいなくなったし、今日はこれまでだね”と言いながら生徒会室を後にした。これが目当てか。
「……ったく、何やってンだよ深影は」

   ◆ ◆ ◆

 思わず受け取った束をどうしようかと、小牧は階段の踊り場で悩んでいた。何気無く捲ると、持っていたペンでスラスラと印を付けていく。
「生徒会長だったってホントなんだ」
 いつの間に来ていたのか、伊織が上から覗き込んでいた。
「似たヤツなら、一年の時やってんだ。凄ぇ忙しかったから生徒会長なんか二度とやるもんかって思った」
「確かに忙しそうだよね」
「深影会長の嫌がらせなのかなこれ……」
「信頼してるんだよ」
 思ってもない切り返しに驚く。伊織が隣に腰掛けて束を覗き込んだ。
「副会長さんに任せてるのも、あの人なら間違いなく正しい方に導けるって知ってるから。小牧に任せたのも、小牧なら出来るって思ったから。だから、結局甘えてるだけなんだよ、アイツ」
 解りにくいけどね。そう続ける伊織はどこか愛しそうに目を細めていて、小牧はチクリと胸が痛んだ。
(幼馴染みの特権か……いつもなら凄ぇ萌える筈なのに)
 気付いた時には手が動いていた。伊織がびっくりしたみたいに目を開く。濡れた黒瞳が、間近で見ても綺麗だと思った。
「ど、どしたの?」
「嫉妬した」
「……誰に、」
「言わなくても解るだろ?」
 薄い桜色の唇をペロリと舐めたら、途端に恥ずかしそうに赤くなる。ホント敵わない。全部可愛い。
「小牧は、さ……」
「ん?」
「こう言うの、本当に好きな子にした方が良いよ。小牧モテそうだし、俺なんか遊びで手ぇ出したら絶対後悔する」
 目を伏せて悲しい事を言う伊織は、泣きそうな顔で微笑んでいた。瞼にキスしたらくすぐったいと身を引く。



あきゅろす。
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