少女の雨宿


結局、何も好転もなく、その日は終わってしまった。





宿




お昼頃から皆の態度が一変してしまった。
空気的にも、視線的にも。
私に向けられるソレらは、心を沈ませるのには充分だった。


「ふぃ〜…」


深い息を吐いて身体を伸ばすように机へのしかかる。

ザ・たれぱんだ。

―――――――――完璧だ。


「……………」


ダメだ。全然気が紛れない。
あえなくして本気で沈むことになってしまった優奈は、ぼーっ、と外へ視線を映した。


「すごい雨…」


ザァザァ、と地面に容赦なく身を降ろす雫たち。
正直、地面に弾かれている様子は痛そう。

でも、雨は嫌いじゃない。
皆は『濡れるのが嫌い』とか『雨の日はなんか自然と怠くなる』とか言うけど。
確かに濡れたら服とか髪が肌にくっつこうとするし、欝陶しい。
でも、雨が傘に当たる音とか、あの感触は嫌いじゃない。


ザァザァザァ


雨が止む気配はない。
今日は傘を持って来ていない。
折りたたみ傘も、ない。
いつもなら入れているのだけれど、今日は持って帰る科目も多いし、晴れていたしで、入れてなかったのだ。

もうちょっと、マシになってから帰ろう。

『時間が経つにつれて、雨が激しくなるんじゃないか』とか『遅くなったらお母さん、怒るかな』なんて考えが頭を過ぎったけれど、構うことなく、ぼーっ、とすることに決めた。

ただただ今は、人込みに入りたくなかった。






いつまでそうしていたのだろう。
意識が浮上するような感覚を頼りに、ふと目を覚ました。

…………目を、覚ました…?


「ハッ!?」


次の瞬間、一気に覚醒した。
どうやらいつの間にか寝入ってしまっていたらしい。
不覚。

咄嗟に外を見やったけれど、雨はまだ降り続いていた。
ややマシになったかな…ぐらいにはなっていたけれど。

マシになったし、もうそろそろ帰ろう。

そう思い、横にかけていた鞄を机の上に乗せ、席を立った。
しかし。


「う、わぁっ!?」

―――――――ガタンッ
――――――――――ダンッ!


寝起きだからか、上手い具合に足がもつれてしまった。
そのまま支えすらも手に掴めず、地面に身体を打ち付けた。


「いっ、た…」


まるで水面に打ち付けたような表面全体の痛み。
ひりひりして、痛みが持続している感じがする。

幼い頃読んだ、雨は小人、と表現されていた絵本をふと思い出す。
彼らは華麗に地面に足をつけたり、葉っぱの上から滑っていたけれど、どうやら人間がやったら結構不細工な結果になるらしい。

……私だけかもしれないけれど。


「何してるの」


不意にかけられた声。
同時に、茶色の木目の床しか見えていなかったところに、白が視界に入った。

ゆっくりと顔を上げれば、その色は黒へと変わっていき、最後には―――――――。


「下校時間、とっくに過ぎてるよ」



(会いたいようで、会いたくなかった)





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