少女の発見


それは、美しい人だった。










どこまでも澄み渡る蒼い空の下。
屋上にある人がいた。
フェンスに上半身を凭れさせ、頬杖をついているようだ。

黒い服……あれは学ランだろうか。
それを羽織ったその人は、とにかくこの明るい空とは違う黒色であったから、一人だけ酷く浮き出たような存在に見えた。
全く正反対の異色。
きっとそれのせいだったんだろう。
ふと視界に入っただけで、私は呆気なくその人に一種の魅力を感じた。

今は昼休み。
太陽は遠慮という言葉を知らない態度で照り付ける光線を地上に送り出していた。
私は木の下にいて、木漏れ日となってほど好い感じなのだが、対してあの人は影も何もない直射日光の中。

暑くはないのだろうか。

しかし、そんなことを感じない、といったふうにあの人は存外涼しい顔をしていた。
風があの人の黒髪と黒い上着にじゃれ合っていたからそう見えたのかもしれない。


「あれは、風紀委員…?」


学ランではあるけれど、あの特徴的な髪型(リーゼントって言ったかな…)ではなかったので、私の思考は一時憚られた。
しかし、あの服装は間違いない。
あの暴力集団としても名高い風紀委員だろう。
一抹の確信を持って私は一人頷いた。

この学校の風紀委員は特殊な事でも有名であった。
特にその頂点に君臨する年若き大将は中々に融通の利かない者なのだとか。
困ったものだ、と頭を抱えている割に、何もしない大人達。
子供相手になんて弱気な…、と軽蔑していた記憶もあるが噂を耳にする度、寧ろ彼らへの同情の念さえも芽生えてきたくらいだから、風紀委員というのはかなり乱暴な人達なのだと思う。

しかし、今は違う。

実際風紀委員が暴力行為を振るっている場面を目の当たりにしたこともない私。
だから、今あの人の姿を見ても、学ランだろうがそんなことは気にしなかった。
恐怖心など煽られない。
それどころか、そんなに忌み嫌われる程の雰囲気を持っていないようにも見えた。

明るい日の下で、その人は退屈そうな顔でどこをともなく眺めていた。

ほんの暫くして、ハッと我に還った。
何分ぐらいあの人を見ていたのだろうか。
思わず時間も忘れてしまう程、あの人に魅入っていたようだ。
なんだか、気恥ずかしい。
他人をじっと見続けるなんて、失礼にも程がある。
心の中で自分を叱咤し、本に意識を集中させる。


あの人は、もうあの場から消えただろうか。



(無意識にあなたの行方を気にしている私がいた。)




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