少女の習慣


空を見上げた。
海よりも薄い蒼色で彩られた快晴の大空を瞳に映した。

今日も、きっといいことが起こるような気がする。










なんて綺麗な空だろう。
夜になったら黒色のカーテンを下ろして誰にも世界を抜け出させないように閉じ込める印象を与えるくせに、朝日が昇り、こうして昼間に近付くにつれて周りは明るくなる。
カーテンを開け放した瞬間の、あの爽快感とよく似ている。

草木も太陽にこんにちはをするように頭を上げて、綺麗に咲いている。

この中庭は私のお気に入りの場所。

並盛中に通う一生徒の私は、昼休みになると、こうして一人抜け出して1番どっしりと構えているこの木の下に腰掛けるのだ。

そうして今朝方、お母さんが作ってくれた昼食を一人で食べる。

別に友達がいないとか、そんなわけじゃない。
友達はちゃんといるし、お互いを頼りあって学校生活を過ごしている。
かけがえのない、存在だ。

だけれど、私はこうして抜け出させてもらっている。

理由はちょっと恥ずかしいことなのだけれど、彼女には彼氏がちゃんといる。
彼氏とのコミュニケーションの為にも!と私が自ら辞退し、彼女彼氏だけの世界を作り出そうとした結果なのだ。

カップルがいることはいいことだ。
だけど、そういう雰囲気を目の前で醸し出されたら正直、どうしようか迷ってしまう。

『空気になれ、私!』と念じるか、『きゃー!!』と雰囲気を盛り上げるかという、ふたつにひとつの道しかない。

要するに、居づらいのだ。

私のせいで、お互いに気を使わせているようで。
それで彼らの仲がもつれてしまったら、とても申し訳ない。

他人の恋愛には興味があるし、またそれを幸せだと思う。

私は性分的に他人が幸せそうにしていたら無意識に幸せを感じるものだから、どんな些細な事でも頬が緩まずにはいられない。

彼女達はそんな空気は出してない、と頑固にも言い張る。
その様がまた二人共似ているものだから、耐えられなくて口から笑い声が出た。
『なんで笑うの!』と怒られてしまったが、気にしない。
無意識でそんなムードを出している人達に、ただ感服しただけなのだから。

そんな彼らに私は『とにかく、昼休みは私は一人で食べますから。後でね』と笑いながらごり押しすると渋々(特に彼女の方)といった体で了承してくれた。

クラスの男子も、昼食の最中だというのに食べ終わるや否や校内鬼ごっこをしだすものだから、堪らない。
この前、お弁当をひっくり返された時は本当にどうしようと思った。

それらの言い訳を言えるだけ言ってなるべく、一人で食べるようにしていた。

最初はやはり寂しかったが、慣れてしまったのだろうか。
次第に負の感情は消えていき、今では周りがより見えるようになって景色を愉しむ余裕まで出てきた。

中庭に咲く花は勿論、私を直射日光から護ってくれているこの木を見るだけで、心が洗われる。

いい天気に、陽気な空気。
それでも、ここは静かで落ち着く。
邪魔する人は、誰もいない。
幸せな、私の時間。

お弁当を食べ終え、『ご馳走様でした』と手を合わせて一礼。
お弁当を袋の中に入れて持って来ていた小説を手に取る。

今は1時55分。
20分で食べたんだ…とその自己最高記録にちょっと感心する。

もう一度空を見上げた。
木漏れ日がほど好く明かりを調整してくれているお陰で何かと居心地がいい。
自分だけの特等席のようで、妙な優越感が口元に弧を描かせた。

そんな中、私は貴方を見つけた。

空にたゆたう雲の下、学ランを羽織った綺麗な少年を―――――。



(空の下、貴方は何を想う)



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あきゅろす。
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