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ポットの中には既に沸いていたお湯が入っていたらしく、風は壁の中に設置されていた食器棚からカップとソーサーの二組を取り出し、カチャカチャ、小気味良い音を立てながら準備を進めていた。
扉付近から動けなかった蘭はその様子を見て、あることにハッと気付いた。
どうして自分より上の立場である風様にお茶を煎れて頂いているのか。
自分はリボーン様より彼の秘書としてこちらにやって来たのだ。
風様にそんなことはさせてはいけない。
蘭にしては早い決断をし、急いで代わって頂こうと風に近寄った。
「あの、風様。それは私がっ…!?」
慣れない絨毯の上だったからだろうか。
それとも彼女の靴のせいだったのだろうか。
躓く要素のないところで蘭の身体は傾ぎ、あまりの驚きで言葉が変に切れた。
風もその台詞に違和感を感じ、横を振り向いた。
途端、目に入った光景に目を見張った。
――――――ドダンッ!!ダン!!!
激しく鈍い音が個室に響いた。
その振動で茶器も震えたが、幸運なことにひとつも落ちてくることはなく何事もなかったかのようにその場に突っ立っていた。
その様を片隅に見やった風は咄嗟に食器を手から離していたことに安堵した。
でなければ、熱いお湯が彼女に被っていたかもしれなかったから。
もし…、を考えてしまった風は胸がひやりとする感覚を覚えた。
だから尚更、自分の上に倒れている彼女に異常がないことに安心した。
まさか、リボーンの悪戯半分の忠告がこのような場面で早々起こるなどとは予想外だった。
彼がこの場面を見たらきっと、そらみたことか、とけたけた笑うに違いない。
今でも頭の中で笑う彼が安易に想像出来る。
それにしても、大変これは遺憾だ。
全てがリボーンの思い通りになっている。
彼女はもしかして、リボーンに何かしらの催眠をかけられたのではないだろうか。
そんな疑念すら頭を掠める。
彼の思い通りになりすぎて、こちらは上手く弄ばれているような気分だ。
いつか、お返しをしなければ…。
次はこちらが一泡拭かせてやろう、と心の片隅で誓いながら風はゆっくりと顔を上げた蘭を見つめた。
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