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「蘭、列を乱すのはよろしくありませんわ。さぁ、早く行きますわよ。」


気付いたらあまりにも距離を置いてしまっていた。
どうやら気遣って下さったのか、リサさんは私の腕を勢いよく引っ張り皆さんが向かっている北館へと急いで歩を進める。

しかし、それがいけなかった。


「わぁ!? リサさん、ちょっ、ちょっと待って下さっ…!!」


瞬間、グラリと傾ぐ身体。
引っ張られる、と気付くのが遅すぎて自分の足に躓いてしまったのだと気付くのもまた遅かった。
しかし不思議と危ない、という気持ちになったのを頭は瞬時に理解していた。

―――――怖い、

地面に叩き付けられるのを覚悟して痛みに耐える為、咄嗟にギュッと目を閉じ、身体を強張らせた。

しかし、予想外にもそんな痛みはいつまで経ってもなく、ふわり、と温かい何かが身体に当たった。

――――――え?


「!?」

「大丈夫ですか?」


見上げた先には風様が心配を露にした表情で私の顔を覗き込んでおられた。

どうやら、こけるあの瞬間に私を受け止めて下さったようだった。
……一体いつの間に。
さっき見た時、もっと向こうにいたのではなかったか。


「あ……、」


しかしこの状態はやはり、きついものがあった。
腹部に回された手、至近距離の顔。
何より、抱きすくめられているようなこの風様の身体に全体的に触れているこの状況。
自分の体勢にようやく気付き、慌ててお礼を言いながら離れる。


「あ、だ、大丈夫です!! ありがとうございます!!」


頬に体温が全て昇る感じがする。
ほんの少し、クラクラしてしまう。
あぁ、なんてバッドタイミング。
胸が、苦しい。


「そうですか、よかったです。気をつけて下さいね。」


風様は安堵されたようだった。
その表情を見て、私も内心ホッとした。
これ以上、不愉快な想いはさせたくなかったから。


「はい、本当にありがとうございました、風“様”。」




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あきゅろす。
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