また、夜が明ける
2
よし、と、自分の中で仕切り直し、また料理に取りかかる。そういえば、政宗さんはご飯食べてきたのかな。まだ時間早いし、食べてないかも。一応聞いておこう。
-こんこん
『どうした?』
「あ、政宗さん…えと、ご飯食べてきました?」
『あー…食べてねえ。何、もしかして作ってくれんの?』
「は、はい。俺が作ったので良かったらですけど…」
『じゃあよろしく。できたら呼んで』
政宗さんの受け答えは基本的に優しい。まだ環境に慣れきってない俺に、気を遣ってくれているし、匿う理由も尋ねてこない。―――二重人格のことも。
俺としてはその対応がとても助かってる。
また、政宗さんに迷惑かけないようにしなきゃ。…役に立たなきゃ。
「政宗さん、ご飯できました。」
『ああ、今行く』
-がちゃっ
「っ!!お前ドアの真ん前にいたのか?危ねえだろ」
「は、はい!…すみません」
しょげた俺の頭を軽くぽんと叩いて、政宗さんはリビングへ行ってしまった。…うまくいかないなあ。
「さすが隆一だな〜!料理すげー上手い」
「そんな…っ、夏桐さんの方が全然っ」
「そう謙遜すんなよ。…あいつはプロなんだ、比べることがそもそも間違ってる」
「…そうでしたね」
夏桐さんは、政宗さんの秘書で、その上生活の面倒もみているすごい人だ。政宗さん曰わく、政宗さんは生活力ゼロらしい。
「そうだ、今度どこかに出掛けないか?」
「あ、いいですね。」
-にこ。
「……どこ、行きたい?」
(くそ、今の可愛い。)
「決めていただいていいですよ」
というのも、休みの日にどこかへ出掛けるなんてしたことないから、こんな時どこに行くのか思いつかないだけ。政宗さんは俺の家庭について聞かない。だから、そのまま政宗さんに決めて欲しい。―――はあ、また、気を利かせられない。
「…そっか。じゃあ服見繕いにでも行くか。そろそろ肌寒くなってくるし」
「え、あの、俺お金無くって…」
「知ってるよ。恋人の服ぐらい買ってやる」
"恋人"―――その言葉を聞いて、少し違和感があった。俺たちは契約で繋がれた関係だ。政宗さんは良い人だから、きっと困ってた俺に気を遣って、ウェイトが軽い"恋人"にしただけ―――だから、"恋人"というのを理由にするのは気が引けた。
「ありがとう、ございます。」
そう言うのがやっとだった。
役に立ちたいのに、結局頼ってしまっている俺。腹が立ってしかたない。
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