novel
Story of a boy lost power
(一護!)
  
凄く近くで呼ばれている気がして、上半身を勢いよく起こしたのに、周りに小柄で黒い着物を着た黒髪の少女の姿は見たらなかった。
 
「くそっ・・・用がないなら呼ぶなよなっ・・・」
 
ばふん、と再びベッドに身体を沈めてから、思い出す。
 
自分は、もう死神ではないことを。
 
「・・・くそっ」
 
触っても魂の抜けない、意味の成さない代行証。
死神でもない自分が持っていても、何を証明すると言うのか。
 
(俺は、ユウレイの見えないこの生活を、望んでいたはずだ)
(そうだ、死神なんてなりたくもなかったんだ)
(嫌々死神になって、でも楽しくて、)
(この世界から、抜け出すことなんてないと、思ってたんだ)
 
そんな確証も何もない、自論だけが根拠だった。
けれどそうなると確信していた。
 
いつものように「日常」に戻って。
ルキアと恋次達と一緒に学校へ行って、授業を抜け出して虚を倒して、授業に戻って越智さんに怒られて。
それで冬獅郎に小言を言われて、啓吾たちに遊びに行かないか、と誘われてそれを断る。
 
一度でもユウレイが見えない世界なんて、考えたことがなかった。
憧れたことはあっても、自分にとってユウレイは「日常」の中に在ったものだから、想像は出来なかった。
だからユウレイが見えない人の気持ちが分からなかったし、分かれなかったのだ。
ユウレイが見えるのが当たり前で、死神でいることすら当たり前になっていて。
周りの人間から見たら「非日常」であることが当たり前のことが、俺にとっては「日常」となってしまっていた。
それだけ感覚が麻痺してしまっていたのに、気付かなかった。
 
死神の力が消えていくときに、気付いた。
自分の想像している「日常」には、戻れないのだと。
 
思い返してみると、死神になってからは楽しかったことがたくさん詰まっていた。
勿論辛いことも多かった。けれどそれ以上に、得たものはたくさんあったと気付かされた。
藍染がいなくなった今は、ルキアたちが現世に来る理由はない。
それに死神として現世に、空座町に来ても、自分はその姿を目で見ることはもう出来ない。
自分がもう死神代行ではないから、義骸に入る理由もないのだ。
必要があれば、石田や井上、チャドに連絡すればいい話だし、もう戦力を持たない自分は用済みなのだ。
 
(・・・17ヶ月、か)
 
たった一年とちょっと。たかがそれだけの期間だったのに、一日が過ぎるのが妙に遅かったのを覚えている。
その期間の間に、気付けば受験生になっていて、勉強を一生懸命しなければいけないはずなのに、授業に身が入らなくて越智さんに授業中何度シバかれたことか。
 
「・・・てめぇのせいだぞ、ルキアっ・・・」
 
目頭の辺りが熱くなる。目尻の方に溜まっていく水分が引力に逆らえなくて、そのまま下に伝っていった。
 
「いっそ、俺を殺してくれりゃ、俺だってちゃんとした死神に成れたかもしんねぇのにっ」
 
次々にあふれ出す水分を少しでも拭おうと、目の上に腕を持って来るけれど、ほとんど無駄足に終わってしまう。
きっとルキアがいたら、そんなことはできない、と言って殴るだろう。そして抱きしめてくれるのだろう。

自分でも分かる、死神代行。
なんて、脆い響きの肩書き。
所詮は「代行」であって、「死神」ではない。元の魂はれっきとした人間だ。
元々少しだけあった素質ってやつが、ルキアの霊力によって呼び覚まされただけで、もう今は斬月の声も聞こえないし、自分の精神世界に潜ることも出来ない。
「人間」に戻っただけ。
なのにこんなにも虚しくなる。
 
(虚の気分って、こんなんか?)
 
今なら「死神」というものにすがって、虚になれるかも知れない、なんて考えてみる。
そんなことしたら、またルキアが泣いて、殴るんだろうな。
 
全部、全部、こんなことをしたら、と考えると、それに対するルキアの反応を考えてしまう。
 
(嗚呼、)
 
「もう、俺重症じゃねぇか」
 
 
 
 


気づけば考えるのはお前のこと
(いとおしくてしかたないんだよ) 



tugi

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