novel
Friendship -Proverb of the kiss-
元々、結ばれよう、という考え方をした自分たちが浅はかだったのだ。
分かっていたはず。この立場で、この地位で、結ばれることが先ず不可能だったのだ。
昔は、不可能を可能にできると、信じて止まなかった。自分たちは、それだけのことを出来る力を持ち合わせていると、思っていた。
けれど、大人になってしまった自分たちには、無理だ、と、諦めることを知ってしまった。これは幾ら努力をしたところで、忘れることは出来ない「事実」だ。
だから、見たくも、ない筈であるのに。
「・・・相変わらず、綺麗だな」
「ありがとう」
目の前で、純白のドレスを着た愛しい人。
相手は、俺じゃない。
いい男らしい。性格も良く、学問にも優れていて、決して無理強いなどはしない、優しい男だそうだ。
実際に男には会ってはいないが、その男の話をしているときの話し方から、本当にいい男だ、と確信した。
自分とは、違うのだとも、容易く理解することができた。
もう一度、白に包まれたその姿を見た。
体のきれいな曲線をより浮かび上がらせるデザインのドレスは特注品だろう、控えめだけれど贅沢にレースが使われた穢れない白いドレス。
普段下ろしている長く豊かな桃色の髪は、頭の頂点に値する位置で団子状にまとめられている。そのために普段秘められている白い首筋が、晒されている。
その白さを隠すように、薄い紫色のショールを羽織っていた。
「今日で、終わりだ」
「そうね」
表情が、少し和らいだ気がした。
「・・・あと、どれぐらいの時間があるんだ?」
「・・・・・・半刻ぐらいかしら。
まだ、着替えと、会場の準備が出来ていないみたいだから」
「・・・そうか」
困ったような表情は、いつもの表情と変わった様子は無かった。けれど、本当ならば幸せそうに微笑んでいるだろう笑顔は、まるで雨が降る直前の雲のように暗かった。
けれど、どうしようもなかった。
(『私、結婚するの・・・父が決めた、幼馴染と・・・』)
あの日、あの場所、あの天気、あのときの表情、声、仕草。全部全部、網膜に焼き付いてはなれない。
こう言われてしまっても、何も出来なかった、覆せるだけの力は、今の自分になかったのだ。
身分の差は、それ程に大きかった。
けれどそれでも何も出来なかったのは、結局自分が勇気を出せなかっただけで。
所詮は自分がただの臆病者なのだ、と自覚するしかなかった。
と、とても大きな音で、腹に響く 教会の鐘が、なった。
「・・・そろそろ失礼するよ」
「・・・ええ。
最後まで、ありがとう、神威・・・」
他に、言いたげな瞳。
それを見ないように目の前の彼女の額に、ひとつ口づけを落として。
紫の長い髪を翻して、その場を去った。
それから彼女を見ることは、なくなったのだ。
額へのキスは友情
(隣に存在することが出来なかった代わりに)
tugi
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