novel
変人先生
「そいえばさ、四ッ谷先生。全校集会の時、皆に嬉々として怪談話してたのに、なんで踏み切りのところにいたの?」
 
カラン、コロン、となっていた音が止んで、四ッ谷は振り返った。
普段は一くくりにされている髪は、ほどかれるとまるで実験に失敗したあとのようにボサボサで、眼鏡が無いせいなのか、若く見えた。
 
「そりゃ、演出がある筈の「ソレ」が来なかったんだから、ステージ袖にいるオマエに何かあったとしか考えられんだろう。
 ・・・弥生ヒナノが、どういった手口で殺されたか、俺には判っていた。
 同じような手口で、今度はオマエが死んだら、ただでさえあんなことをして目を付けられているのに、教師としての俺の立場はどうなる?」
「・・・なんか適当な理由じゃない?ソレ」
「ソンナコトアリマセンヨ」
 
ミカちゃん人形の上半身を片手に、四ッ谷は再びカラン、コロンと音を立てて、学校の方向に歩いていく。
 
(やっぱり・・・これ傍目から見ても変人だよね・・・今なら増して)
 
白衣を着て、変なサンダルを履いた、ボサボサの髪のイイ歳した長身男。その片手には何故かセロテープが張られたミカちゃん人形の上半身。
しかももう片手は、制服を着た女生徒の片手を握っている。時間帯的にも、もう夕闇は去った後。
 
「先生・・・ごめんね・・・その、眼鏡・・・」
「あぁ、気にするな。
 別に眼鏡が無くても見えるし、寧ろあんなモノ学校以外で着けてられるかっ」
「・・・謝って損した気分」
「ほうほう、そんな小生意気なことを言う真ちゃんには、先生が考えたとっも怖い怪談を語ってあげましょう」
「チョット?!そんなこと頼んでないってば!
 それに、もう夜だし!」
「安心しろ、ちゃんと家まで送っていってやる」
「チョット?!」
 
それでも、四ッ谷が変人である、ということは私だけが知っていればいいのだ。
 
あの時、抱きしめてくれた時の四ッ谷の腕が微かに震えていた。
 
 
何故か分からないけど、それでも心配してここまで来てくれたのだ、と思うと胸がいっぱいになって。
 
(まぁ、今はこれでもいいか)
 
 
とりあえず、今から語られてしまうであろう怪談に備えるべく、恐怖から逃げてしまうように、自分よりも大きい四ッ谷の手を握り返してみた。
 
 
 
 
 
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tugi

あきゅろす。
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