センセイ
年明けの教室は閑散として、何だか殺伐としている。
いつもの張り合いのないメンバーが挙って席を空けていることも、静けさを保っている事由かもしれない。
普段、存在そのものがフザケテいる様な連中たちも、実はセンターなんて受けるつもりでいて昨年末は余裕の表情を見せていたのに、自由登校になった1月に顔をだしたのは数えるほどで…
ツッコミ番長のお役は御免という状態だ。
実は僕もセンター組の一員で、本当は学校に来ている場合じゃない。でも学校の図書館の方が集中出来るし、身が引き締まるんだ…なんて体のイイ言い訳だってことは僕自身が一番分かっている。
暮れる日に照らされた校舎が好きで、呼び出されて嫌々を装って先生の手伝いをしながら、国語準備室から見る校庭の色に自分の気持ちを投影してた。
目の前にいる先生の髪が
うっすらと赤みが差すのを
ドキドキしてながら見てた
目が合うのは怖いのに…
心のどこかで
夕日を浴びた校庭の様に色づいた瞳に
自分を映して欲しかった
未練がましく堅苦しい制服に身をつつんで仲間の減った教室に、僕は後何回通えるだろう。
後どれくらいの日々を先生と過ごせるのだろう。
目に見えてカウントされていく残された日に、僕は焦燥を覚えて。
鈍く光る金色のボタンを握りしめた。
「先生、」
感傷なんて一瞬のもので、目まぐるしく変貌する毎日に僕はきっと追われて、この学ランで過ごした日々をいつのまに懐かしく思う日が来る。
いつの間にか思い出になって、色褪せて…過去に…なる。
先生にとっても僕は過去の人になってしまうのかな。
見送った生徒の一人になって、先生の思い出になって記憶の片隅に追いやられてしまうのだろうか。
そんなの……何だか…
「…悔しいな」
僕はアンタを思い出に出来るだろうか。
淡い初恋の人として思い出す日が来るのかな?
こんなに苦しいのに…
アンタを思うだけで…
胸が苦しくて仕方ないのに…
ずっとこの制服を着ていたい
この制服を来てずっと先生のそばにいられればいい
そしたらまた、放課後の準備室で
アンタの横顔を独り占めできるのに
夕日に染まるアンタの横顔を
見つめていられるのに……
図書室から戻る渡り廊下から、白い雪景色の染まった空を眺める。
皮肉だな、僕の好きな夕日が沈む校庭は
あの人の色に似た色彩に覆われて
眺めることが出来ないなんて
「本当は何だっていいんだよ。雨だろうが雪だろうが曇り空だろうが…アンタの側で眺められるなら…アンタの側にいられるなら…なんだって…」
この白く舞う雪が
色を宿して桜に変わる頃
僕はこの制服に別れを告げる。
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