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ワルキューレは泣かない[杏ほむ]

「全てはまどかの為よ。」

これが彼女の口癖だった。
強がりが得意な本当は誰よりも弱くて脆い少女だった。よく、儚い物は美しいと言うけれど、彼女…暁美ほむらはまさにそれだ。
まだ幼く滑らかな両足は、軽やかに宙を舞えるし、よくかき上げている艶めいた黒髪は彼女のしなやかな動きに合わせて風を撫でる。

彼女は美しい生き物だった。少なくとも、私には無い何かを持っていた。


「あんた、綺麗だな。」
そう言ってやれば、ほむらのアメジストのような瞳が微かに揺れる。


「変よ、こんなあなたなんて…」
「友好的な私が珍しいって?」
「…狂ってる、佐倉杏子。」


狂ってるのはあんただよほむら、という言葉を飲み込む。
私がついさっき聞いたほむらの話した事の方が狂っているに決まっているのだ。彼女が話したのは、自身が何度も親友を救うために時間を巻き戻しているという話だった。
震える唇で何かを覚悟したような顔をして話したほむらの話を、私はどうにも頭ごなしに否定する事など出来ずにいた。

普通に考えれば、妄想か何かだと思ってしまうが、ほむらの様子からはとても嘘をついている様には見えなかったのだ。

ぽつりぽつりと膨大な過去を話したほむらに私が抱いた感想は二つ。

この信じられない程に胡散臭い話を信じてやりたいという事。
それと、そんな中で戦ってきた暁美ほむらの事が好きだという事。


私は強い奴が好きだ。
そして目の前にいる今にも壊れそうな強さに、どうしようもなく惹かれていた。


「あんたがさっき言った話さぁ…」

細い肩がびくりと震えたのが見えた。
私を睨みつけるような強い視線。自然と口角が吊り上がるのを感じた。


「信じるよ。信じられない話だけど…信じてやる。」
「ほ、本当に?」
「ああ。あんたが最初話したように、私の協力が必要なんだろう?鹿目まどかって奴のために。なら、助けてやるよ。」
「どうしていきなり…」
「どうしても何も、それがあんたの願いなんだろ。そのために私に話しをしにわざわざ来た…違うのかい?」


小さな笑みを送れば、優しくされる事になれていないのだろうか、ほむらは顔をしかめる。まるで、理由でも聞きたいかのように。
理由などありはしないのに。


「好きだからだよ。」
「は?」
「優しくされるのに慣れてないあんたも、何かを必死に守ろうとするあんたも、その綺麗な面も…私は何故かあんたに惚れてんだよ、どうしようもなくな。」
「…あっ……」

ありがとう、と言ったようだが、その唇は動くものの、ほむらの口は音を正しく発しない。

「あんたが言うように、今の時間軸の私は特別なんだろ?あんたに惚れる私はここにしかいない。なら、私があんたを救ってやるよ。」
「本当に…へんな、杏子…だわ…」

目に涙を溜めて、笑うほむらの髪をそっと撫でた。もし駄目だったその時はまたどうか、違う時間軸の私がほむらの話に耳を傾けてやれますように…と願いも込めて。


「一人ぼっちは…寂しいもんな。」

別の時間軸の私が美樹さやかに言った言葉らしいが、ほむらに向けてそっと呟いた。

願ったのなら叶えてやりたい。
欲しいだけの奇跡を、戦うお前にくれてやりたい。


ただ、それだけなんだ。



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