純情ペテン師[杏ほむ] 今日はほむらと会った。 あいつはあたしを見た途端に、微妙な表情を浮かべ去ろうとした。けれどそれを素早く引き止める。 「…なにか用かしら?」 そう冷たく言い放つほむらに向かって、余裕たっぷりに笑ってやると、また嫌そうな表情。そういえばいつも眉間に皺が寄っている気がする。 「あのさ」 苦し紛れに言った言葉。 本当は用があって引き止めた訳ではない。ただ、なんとなく引き止めてしまっただけだった。しかし引き止めた手前何か話さなくてはと思えば思うほど、握りしめた手がじっとりと汗ばむ。 今日は暑いからだ。きっとそれで汗をかいているだけ。別にほむら相手に緊張している訳でも、まして焦っている訳でもない。と自分に言い聞かせる。 「く、食うかい…!?」 「いらないわ。結構よ。」 焦って差し出したポッキーは、あっさりと拒絶される。そうかい、あんたになんてやるもんか、と心の中で毒づいた。 「あのさ」 「何なの?私は忙しいのよ。」 「…ああ、鹿目まどか…だっけ?」 「ええ。」 「わ、私さ、あいつの秘密知ってるよ…」 ぴくりと反応したほむらに、なぜか私は嬉しくなった。初めてほむらが私と向かい合おうとしてくれている…そんな状況が何より嬉しかった。 それが例え、口から出まかせの虚言だったとしても。 「秘密…ってどういう事よ。あんたがまどかと直接接触したっていうの?」 「ま、まあ落ち着けよ!ほら…さやかだよ!さやかから聞いたんだ!」 「……美樹さやか?」 どういうこと?と顔に書いてあるほむらに、今日二度目の笑みを送る。 「あんたさぁ…あいつの事好きなんだろ?」 「…ええ。愛してるわよ。私はまどかの為に存在しているから…。」 「…ならさ、多分この秘密はあんたにとって重大なんじゃないかい?」 「どういうことなの?説明しなさい。」 食いついた様子のほむらを見て、口端が吊り上がる。そして同時に、こんな真似をする事でしか、ほむらと会話する事すらできないのかと、内心自分自身に呆れる。 「まどかの秘密を教えなさい。」 「だめ…だめだ。」 「なぜなの?」 それは、本当はそんな物は存在しないからさ…だなんて言えるはずもなかった。 あたしは馬鹿だ。こんな嘘でもいいからほむらとちゃんと話したいだなんて。 黙ったあたしを不審に思ったのか、ほむらはその綺麗な黒髪を揺らし、私に背を向けた。 「貴女が言わないのなら、美樹さやかに聞くわ。それじゃ…」 「ま、まあ待てよ!教えないなんて言ってないだろ!」 「言ったわ。」 「言ってねえよ。私と…私と、一日付き合ったら教えてやるって!」 意味が分からない、といった様子のほむらを余所にさらに言葉を続ける。 「それじゃ、明日の3時にここに来いよ。絶対な!」 「は?待ちなさいよ…!」 そんなほむらの声も無視し、あたしは駆け出した。自分でも無茶苦茶な事をしてると分かっている。そして、自分と父の軌跡をなぞるような行為だという事も。 「だけど…あんたが初めてあたしを見てくれたみたいで…」 すごく嬉しかったんだ。友達ができたみたいで。また明日会おうって言えるだけで嬉しかったんだ。と呟く。 また明日がくる確証なんて、魔法少女であるあたしにもほむらにも無い。 けれどほむらと約束したなら、必ずやってくる気さえする。 「また明日な、ほむら。」 少女の姿をした悲しいペテン師は、寂しげにそう呟いて、その場をあとにした。 ・*・*・*・*・*・*・ 嘘吐きな杏子もいいな、と。 お父さんの事もあるし、杏子は嘘とか敏感そうですよね。色々と。 ほむらはほむ→まどなイメージ。 まどかはあくまでノーマル娘な気がしてならないです。普通に幸せな結婚しそうだったり… 杏子は小学生みたいな一面があっても中々可愛いですよね。 [*前へ][次へ#] |