ポケットの中の宝物[唯憂] 昔からお姉ちゃんには何でも拾ってくる癖があった。 幼稚園の頃、道に落ちているもの全てに興味をしめして、おはじきやきれいな石などでポケットをパンパンにして通園していた。そして全てを大切な宝物のように、見つめて眺めるのだ。 そんなお姉ちゃんが、今日捨て犬を拾ってきた。 *** 「わん太はあったかいねー」 そう言いながら、ドライヤーでお風呂に入れ終えた犬を乾かしながらお姉ちゃんは犬を抱きしめた。 「もー、お姉ちゃん。早く乾かしてあげないと、わん太が風邪ひいちゃうよ?」 「そ、そうだね…!よーし、じゃあもっとドライヤーを強くして…」 お姉ちゃんがドライヤーのスイッチを強くしたとたん、犬は熱かったのか小さく鳴いた。 そんな様子を見て、お姉ちゃんはしきりに、ごめんね熱かったよね、と焦ったように謝った。 わん太とはお姉ちゃんが拾った犬につけた名前で、理由は犬だかららしい。 わん太はお姉ちゃんが部活の帰り道に、軽音部の皆さんと見つけたようで、とりあえず家に連れてきたという訳だ。 でも捨て犬と言うには、なんだか綺麗な犬だった。 真っ白でふわふわした毛はよく手入れされているし、人によく懐いている。多分、どこかの家から誤って逃げてしまった犬だと思う。 「ういー。わん太乾いたよ!」 ドライヤーの音が止み、わん太は元気よくワンと吠えた。 「ありがとう、お姉ちゃん。わん太も嬉しそうだね。」 「うん。あ、わん太ってお腹空いてないのかな?何食べるんだろ……」 「うーん…ドッグフードは家には無いしなぁ……」 わん太も多分いつもドッグフードを食べていたはずで、いつもと近いものを食べさせた方がいい。 でも、犬を飼っていた事のない家には、ドッグフードなんてない。 「じゃあ私、買ってくるよ!」 お姉ちゃんが笑顔で元気よく言った。 「私がいくから大丈夫だよ。いつも行くスーパーになら、ドッグフードあるだろうし。」 「いいよ、ういは私のご飯をお願いー」 そう手を合わせて笑うお姉ちゃん。 そういえば夕食を作る途中だったのを思い出した。 「…じゃあ、お姉ちゃんよろしくね!」 「うん!まっかせなさい!」 張り切った様子で言うお姉ちゃんに、財布を渡してた。 「あとお姉ちゃん、わん太をお店の中に入れたらダメだよ。お店の外で待たせておいてね。」 「ラジャーです!じゃあわん太行こっか!」 そう言い、お姉ちゃんはわん太を連れて元気よく家を出た。 「まったく…お姉ちゃんは本当に優しいんだから。」 小さく微笑んでから、私は夕食作りを再開する事にしたのだった。 *** 1時間後、お姉ちゃんは泣きそうな顔をして戻ってきた。 横にはわん太は居なくて、手にドッグフードの入ったレジ袋を下げていただけだった。 「お、お姉ちゃん!?どうしたの、何かあったの?」 「うい……、わん太は帰っちゃったよ。」 目にいっぱい涙を溜めたお姉ちゃんから、詳しく話しを聞く。 お店に着いてから、わん太を外で待たせた事。 わん太はいい子で待っていた事。 急いでドッグフードを買った事。 お店を出たら知らない人がわん太を抱きしめていた事。 その人はお姉ちゃんに気がついて、沢山お礼を言った事。 わん太がとても嬉しそうだった事。 泣くのを我慢して笑って見送った事。 お姉ちゃんは全て話し終えると、私に抱き着いた。 小さく震える肩を抱きしめると、お姉ちゃんは泣いていた。 今まで我慢をした分だけ、思いっきり泣いた。 私は何もかけてあげられる言葉が見つからなくて、お姉ちゃんの頭を撫でつづけた。 そうして思い出す。 幼稚園の頃のお姉ちゃんのポケットの中身を。毎回お母さんに叱られて、「道に落ちているものを拾っちゃダメよ」と捨てられていた。 今思えば、道にはガラスなども落ちていて、お姉ちゃんはそれで手を切った事があった。だからお母さんは厳しかったんだと思う。 けれどその度にお姉ちゃんは、泣いていた。 こんな風に。 ポケットの宝物はいつも無くなって。 手放す時はいつも泣いて。 それでもキラキラした目で宝物を拾ってきては、見つめるお姉ちゃん。 私はそんなお姉ちゃんを見つめるのが好きだった。 私だけはずっと傍にいるよ、と伝えたかった。 「お姉ちゃん。」 優しく呼べば、私の腕の中で泣くお姉ちゃんはビクリと震えた。 「お姉ちゃん。私はどこにも行かないから。ずっと一緒だよ。」 「うい……あ、りがと…っ!」 涙声でお礼を言うお姉ちゃん。 そんな様子が愛しくて、抱きしめた腕に少しだけ力を込めた。 ・*・*・*・*・*・*・ 久々の唯憂でした…! 唯の小さい頃はこんな感じだったのかなーっていう妄想から出来たSSでした。 わん太は、唯のネーミングセンス的にこんな感じかな……と。ギー太みたいな? ではではここまで読んで頂いてありがとうございました! [*前へ] |