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エンドレスタイム[唯憂]


夏休みに入り、軽音部の練習も盛んになってきたある日。

練習のない日だったため、お姉ちゃんとリビングで2人、テレビを見ていると
どこからか蝉の声がする。


「ういー、なんか鳴き声が近いねぇ」

ソーダ味のアイスかじりながら言うお姉ちゃんの言う通り、
外から聞こえてくる蝉の鳴き声より、大きい気がする。


「本当だね。窓から家の中に、入ってきちゃったかな?」

「んー、でもどこにも……
発見ー!」

お姉ちゃんが勢いよく指差した方を見てみると、
茶色の蝉が壁に止まっていた。


お姉ちゃんは目を輝かせて喜んでいるみたいだ。
今までみていたクイズ番組など目もくれずに、私に捕まえてもいい?と聞いてきた。
きっと、捕まえて外に離してあげるつもりなんだろう。

いいけど気をつけてね、と言うとお姉ちゃんは不思議そうに

「蝉は噛んだりしないよ?」
と言う。



「でも、結構高い所にいるし、もしお姉ちゃんが転んだりしたら…」

「大丈夫だよー。」

「でも…私がやるから、お姉ちゃんは座ってて?」

「憂がやるの?虫、苦手じゃなかったー?」


そう。私、平沢憂は虫が苦手。
見るだけなら大丈夫だけれど、触る事なんて出来そうにない。

けれどお姉ちゃんが怪我をするくらいなら、私が我慢すれば……


「いいんだよ、ういー。私がやりたいのっ」

そう言って笑うお姉ちゃん。
なんだかいつもよりも、お姉ちゃんが頼もしい。

「じゃあ……よろしくね、お姉ちゃん。」
「まかせてっ」

そう言って、ベランダに置いてあった虫網を手に、お姉ちゃんは蝉に迫っていく。

壁にくっついている蝉は、ぴくりとも動かない。
そのすきに、お姉ちゃんは静かに近づいて、椅子の上に乗り、虫網で蝉を捕まえた。


「えへへっ。ういー、捕ったよ!」

「すごいよ、お姉ちゃん!」


けれど、喜んだのもつかの間で、お姉ちゃんは乗っていた椅子の上でバランスを崩してしまった。
お尻から落ちてしまったお姉ちゃんを余所に、蝉は虫網から出て
窓の外へと飛んでいってしまった。


私は急いでお姉ちゃんに駆け寄る。

「お姉ちゃん大丈夫!?」

「大丈夫だよー。それよりも、蝉、飛んでいったね。」

「え、うん。そうだね……」

「よかったねー。短い命なんだから、自由に生きてほしいもん。」
そう言って笑うお姉ちゃんは、いつになく真剣な雰囲気だった。


「なんだか頼もしいよ、お姉ちゃん!」

「えへへー、そう?」
照れたように笑うお姉ちゃんは、なんだか可愛い。


突然、どっと笑い声がテレビから聞こえてきた。
今までみていたクイズ番組が、そろそろ終わりに近づいているようだ。

お姉ちゃんは、テレビを見るために、ソファーに戻った。
そんなお姉ちゃんの後について、私も隣に座る。



「ねぇ、ういー」

「なに、お姉ちゃん?」

「来年も再来年も、ずーっと先も、こうやって過ごせたらいいねー」

「そうだね。ずっと、お姉ちゃんと一緒にいたいな。」

夏休みの忙しい時期でも、こうして私と二人だけの時間をつくってくれるお姉ちゃん。
本当はギターの練習をしたいんだと思う。
けれどそんなそぶりも見せずに、私とテレビを見て過ごしてくれている。
そんな優しさがたまらなく嬉しかった。


短い夏。蝉の命のような、はかなさを持つ、私とお姉ちゃんだけの時間。
そんな時間を大切にしていきたいと思った。


「ああっ!アイス溶けてるー…!手洗ってくるよー」

「いってらっしゃい、お姉ちゃん」


ずっと、一緒に……。


まだ夏は、終わらないから。





・*・*・*・*・*・*・

憂ちゃん視点で、夏休み話。
頼もしい唯もいいな、と思って書いたものです。

なんか、こう、家庭を大切にしてる唯って夫っぽいなーと。
妄想の産物です、すみません。

ここまで読んで頂いてありがとうございました!




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あきゅろす。
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