[携帯モード] [URL送信]
貴女の笑顔を壊したい[カイメイ←ルカ]

※病みルカ注意


『MEIKO』
それは私の憧れとも言うべき存在だった。
私がまだ完全な身体を持たず、開発されている最中。研究者の一人が、女性ボーカロイドのサンプルの一部として私に聞かせた『MEIKO』の歌声。
その歌声を聴いた時、私はこの声に恋をした。心臓などまだないはずなのに、胸が苦しくなるのを感じる。その力強い歌声は、私には眩しくて、それでもどこか温かかった。

それから私はその研究者に頼んで、『MEIKO』の歌を片っ端から聴くようになった。時に力強く、はかなげに、愛くるしく…そんな様々な彼女の歌声を聴き、さらに私は彼女に溺れていった。

そして私の中で確実に膨らむ感情。

『MEIKO』というボーカロイドに会ってみたい。
その一心で、私は辛い開発コードの構築や、痛みを伴う体のパーツ接合なども、静かに堪えた。苦しくなどはない。これも『MEIKO』に会うためであり、一刻も早く彼女に会いたい一心で私は素直に従った。

辛い時も彼女の歌を聴けば、忘れられたのだ。


そんな日々を繰り返す内に、私の体は出来上がった。ボーカロイドを作る際は、一般的なアンドロイドの作り方とさして違わない。まず入れ物となるボディを完成させてから、声などのプログラムを入れていく。
つまり体はあるが、歌うことや話をする事はまだ不可能だった。

けれどそれでも構わなかった。例え私の声が出なくとも、聴覚や視覚はある。『MEIKO』に会いたいという目的は達成できるはずだ。

そんな私を見て、研究者達はすでに開発済みのボーカロイド達を、私と対面させた。
「これからはルカの家族になる子達だから、よく覚えておくんだよ。」
と言われ、私は打ち震える。もはや他のボーカロイドの事などは、すでに頭の中に無かった。『MEIKO』と家族になれる。その一つの幸せな事実が、私の中を満たした。

「初めまして。初音ミクです。」
と幼い声が私の耳に入ってきた。

「私はリン!鏡音リンだよ、ルカちゃん!」
「僕はカイト。君のお兄さんだよ。」
「…鏡音レン。リンの双子の兄だ。」

そう少年の声がすると、活発そうな黄色い少女が「リンが姉だっていってるじゃん!」と、すかさずくってかかる。
中々いい家族なようだ。

しかし私の望む人はどうやらいない。あの私が憧れて止まない人の声は、無かった。
すると研究室のドアが開き、ツカツカとヒールの音を響かせながら真っ赤な女性が部屋へ入ってきた。私の確かに存在する心臓はドキリとなる。

「遅れてごめん。メイコよ。よろしくね。」

その女性は、私をすぐに見つめて微笑んだ。私も何か言いたかったけれど、声を今だに持たない私は、金魚のように口をパクパクさせる事しかできなかった。

そんな様子の私を見て、彼女はまた笑った。

「無理をしなくていいわ。声の開発が終わったら、ゆっくり話しましょう。」

それから彼女は新しく私の家族になる人達に声をかける。
青い男性型ボーカロイドがその声に笑顔で応じた。その一連のやり取りで私は全てを察した。

彼女は…『MEIKO』はきっとこの青いボーカロイドが好きなのだ、と。

彼女の歌声を何千回何万回と聴いてきた私にはそれが嫌でも分かった。
歌う時とは少し違う感情を帯びた声の中、僅かに感じた恋の歌の気配。

きっと『MEIKO』はこの人を思って、沢山の恋の歌を歌ってきたのだろう。あの歌やこの歌も…もしかしたら私が聞いてきた彼女が歌う恋の歌は全てが全て、この青いボーカロイドに捧げられたものなのかもしれない。

私の中で爆発的に膨れ上がる嫉妬。あるいは怒りと分類した方がぴったりと当てはまるかもしれない。


私のそんな様子を悟ったように、目の前の赤い彼女は

「疲れてるのに大勢で押しかけてしまってごめんなさいね。それじゃあ、一緒に暮らすのを楽しみにしているわね、ルカ。」

と私に告げると、他のボーカロイド達を連れて部屋を去った。


これではあまりにも。あまりにも残酷な恋。実らない思いだとは分かっていたはずなのに、これではあまりにも残酷な現実だった。
出来上がったばかりの、私の心臓の鼓動が、激しく打ち付ける。心臓にあるシリンダが軋む音が、嫌でも聞こえてしまい、それがまた私の不快感を煽る。

ああ、けれど。
あれはメイコであり、私の愛したMEIKOとは違う。違うのだ

私の愛し、憧れたMEIKOは、強く美しく力強い女性。私だけを愛して見てくれる女性だと、私は信じて疑わなかったのに。
そんなよく分からない期待を伴う自信が、まるでドミノ倒しのように順序良く崩れていった。音も立てずに、ただ淡々と。


さようならMEIKO。

私の喉は震え、口を動かしてみた。しかし音などでるはずもなく、ただ空気を噛むばかり。
けれどそれでも構わなかった。もう何もかもが、全く魅力を持たなくなってしまったのだ。

私の焦がれた赤い世界は、既に青い世界と共に歩んでいた。どうやっても、きっと私はそこに踏み入る事などできない。その上、私の愛したMEIKOはもうそこには居ない。


それからしばらくして、私は自決プログラムを作動した。
赤から始まる世界に、赤の終わりを告げた。


・*・*・*・*・


ボツを手直ししたもの。
私の思うカイメイ←ルカってこんな感じでした。




[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!