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あんぶれら[ルカメイ]

止まない雨音が繰り返し私の聴覚に優しく触れて、
私の制服の裾をしっとりと濡らす。
初春の雨はまだまだ冷たくて、やっとコートが脱げたばかりの私の紺色ブレザーは、所々雨水を吸って黒のもやついた斑模様なっていた。

ビニール傘を持つ手の先も、すっかりと冷え込んでしまった。内心不快に思いながらも、天気ばかりはどうする事もできないので、出来るだけ早足を心がけて帰路を急いだ。

イヤホンで雨音から耳を塞いで、アップテンポなロックで鼓膜を震わせる。ああ、このリズムで足を動かせばいつもよりも早く帰れそうだと、小さな安堵を心の中で浮かべる。

しかし、ふと私は足を止めた。

雨の色と曇天のせいで、どろりとどこまでも濁ったままだったこの目の前の景色に鮮やかなピンク色が飛び込んできた。

そのピンク色は、長身の大人っぽい女性だった。顔は綺麗に整っていて、お世辞抜きにしても美人さんだ。また身につけている物も、どれもが高校生の私でも知っているような有名な高級ブランドの物ばかりだった。

そういえば一週間ほど前、大学生の兄が彼女にねだられたとか愚痴を言っていたバッグもその女性は優雅な雰囲気で身につけている。そういえば兄はあの後3ヶ月バイトをしてやっと買えるかもしれない、とか私に苦しそうに呟いていたっけ。


しかしその女性の目を引く点はそこではない。
全身ずぶ濡れなのだ。高価であろう洋服もバッグも、綺麗な長い髪の毛も何もかもが。その人は傘を持っていなかった。

私は何か事情があるのだろう、と内心関わりたくないと言い聞かせその場を去ることにした。イヤホンから伝わるテンポより僅かに早く両足を急がせる。
しかしその女性と目が合った。綺麗なウルトラマンブルー、海の色だった。


「中学生…?」
冷たそうな見た目に似合わず、柔らかなハスキーボイスだった。

「ち、違う!高校生…です!」中学生に間違えられたとあって、思わず私は反論する。同時に変な人に関わってしまった自分に舌打ちをした。

「ホテルをね、探しているんだけど…あなた良さそうな場所知らないかしら?」
そう言って目の前の女の人は、雫のついた長い睫毛を揺らして瞬きをした。

「ホテルなんてない…ですけど。」
「本当に?一つもないの?民宿でもいいのだけれど…」
「この辺りはただの住宅地だから。観光地みたいにそう簡単にホテルなんかある訳ないでしょ!」

私が呆れ顔で言うと、女性は端正な顔を歪ませた。どうやら納得がいかないようだった。しかしそんな事も知らないようなら、案外どこかのお嬢様だったりするのかもしれない。雨に濡れていてもただよう気品は感じられるから。


「ああ、そうだった…自己紹介がまだね。」
「自己紹介なんてしなくていいよ。私はもう行くから!もうあんたとは関わり合うこともないだろうから…!」
「あら、連れないのね。私はルカ。さん付けなんてしないで、ルカって呼んでちょうだい。」

どうしてこの人は、私の話を聞かないのだろうかと心の中で舌打ちをする。
どうここから逃げ出そうか、ルカを睨んだままでいると、途端に私のビニール傘にルカが入ってきた。

「よろしく、メイコ。」
その声のすぐ後に、私の唇に柔らかい感触を感じた。
すっかり体が冷えきっているルカの柔らかい唇が、私の反論を押さえ込む。

私のファーストキスだった。
じわりと目に涙が浮かぶ。


「やめて、よ…!」
「いいえ。やめないわ。これが私の仕事であり、命綱なのよ。メイコ。」
「なんで…名前知ってんのよ、ばか!へんたい!私初めてだったのに!」
「あらあら、それはお気の毒だわ。」

目の前で笑うルカは余裕たっぷりな様子だった。それから、
「持ち物にちゃんと名前を描くだなんて、偉いわね。」と私の耳元で囁いた。



・*・*・*・*・*・*・*・

大人ルカ×中学生メイコ。
ルカお姉さんのお仕事はヒモみたい?養ってもらう代わりに色々サービスしちゃうわよ、みたいな。

最初は道聞きたいだけなのに、メイコが可愛く思えてきてからかっちゃうルカ様。そんな感じ、です。
続きそうで続きません。ボツを手直しした物です。



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