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答えは聞かないで[ルカメイ]

※メイコ誕生日記念SS



もう二度と会わないと、いつの日か自分に誓った。
貴女の形の良い艶めく唇がなぞった『さようなら』を、私は今でも覚えている。それなのに。それなのに、それなのに…。

***


「初めまして。巡音…巡音ルカです。」
「初めまして。MEIKOよ。」

簡潔な自己紹介の後、私達は静かに腰をかける。馬鹿に明るい雰囲気のカフェテラスの様子に、私は若干の苛立ちを覚える。
向かいあって座る彼女も、同じように苦い顔。
私の隣に座るプロデューサーだけが、何も知らずにへらへらと笑っている。

実に不快だった。


「お互いちょっと緊張しすぎなんじゃない?ほらほら、肩の力抜いて。リラックスリラックス!」

私の隣から聞こえる声が、私の心臓を掠める。さらに後から、お互い初対面だし仕方ないかな?という発言に、所謂殺意すらうっすらと覚えた。

「あの、そろそろ本題をお願いします。」
私が冷たく言い放てば、向かい側の彼女のアーモンド色の瞳が少しだけ揺れる。

そんなに怒らないでよ、とはぐらかすプロデューサーをそれから一睨み。怯んだ彼はすかさず口を開いた。


「実は、MEIKOとのデュエットを頼みたいんだ。」
「は?」
「明日MEIKOの誕生日だろ?ボカロ達皆で一人づつMEIKOとデュエットさせようって企画が来てるんだ。しかも生放送だぞ!引き受けてくれるよな?」
「どんな曲を歌えと?」
「ルカは…確か、情熱的な恋の歌だったな。」

最悪だった。

顔を上げれば赤い彼女の、悲しそうな、傷ついたような顔があった。
私の本心は、今すぐこの仕事の依頼を断ってしまいたかった。しかし、私はボーカロイドだ。そして歌こそが私の存在理由。答えは始めから用意などされていない。

「了解しました。」
「MEIKOもそれでいいか?」
「え、ええっ。私も前回の打ち合わせ通りで構いません。」

呼びかけられた瞬間、ビクリと体は小さく跳ねた。どうやら、彼女には事前に話が通っていたようだ。ならば話が早い。私も仕事を全うするまでなのだから。


「じゃあ悪いけど、俺はこれで。本社に戻って準備とか打ち合わせがあるもんでな。」
「はい。お疲れ様でした。では私もこれで……」

喫茶店の華奢な椅子を引いて、立ち上がろうとすれば、プロデューサーはお人よしそうな笑顔でこう言った。

「ルカ。これからMEIKOとデュエットする訳だし、少し仲良くしたらどうだ?二人はまだここにいなよ。」
「仲良く……」

本当は目の前の何も知らないお節介な男を蹴り倒し、今すぐにでもこの場から立ち去ってしまいたかった。
早く、彼女の甘いアーモンド色の目から逃れたい一心で。

けれどそんな事は出来るはずもなく、私は赤い彼女とつかの間のティータイムを楽しむ事となってしまったのだ。


「……お久しぶりです。メイコさん。」
「久しぶりね、ルカ。」

二人ともにゆるやかに口を開いた。
すでにプロデューサーは居なくなったこのカフェテラスにいるのは、私達二人だけとなってしまった。
私がその後の沈黙に堪えられずに、カフェオレを啜るメイコさんに声をかける。

「お誕生日おめでとうございます。」
「ありがと。でも明日よ?」
「こういうのは早い方がいいんですよ。」
「相変わらずね。」
「褒め言葉と受け取っておきます。」


思ったよりもすらすらと出てくる会話に、自分でも驚いた。対するメイコさんも、歯切れの悪かったのは始めだけで、昔となんら変わりのない顔で私を見つめていた。

一年前、私達は恋人をやめた。
それはメイコさんから告げられ、私がそれを飲んだという突然の出来事だった。

それからというもの、お互い自分達の仕事で忙しく顔を合わせて会話する機会が減り、段々と疎遠になっていってしまっていた。まさかこんな形での再会は、私としては予想もしていなかった上に、望んでもいなかった。


「そういえば、」

私は一年前の疑問をメイコさんに聞いてみる事にした。それはまだ愛しているから、などという薄っぺらな理由ではなく、ただの好奇心から来たものだ。それにほんの少しのもしかしたらという期待。


「そういえば、私と別れた理由…。まだ聞いていませんでした。」
「あんたね…そういう話は触れないようにしなさいよね。」
「いいじゃないですか。私達は明日恋の歌を歌うんですよ?お互いの理解のためです。」

調子いいんだから…というメイコさんの呟きは、聞こえなかったふり。
嫌そうな彼女に迫れば、渋々その口を開き始めた。

「私は…その…」
「はい。」
「だから…ルカの事が好きになりすぎて…それで別れた…」
「はい?意味が分かりませんが…」
「ルカを、私の好きで押し潰してしまうくらいなら…私から離れたかっただけよ。」「そんなの…」

私はただ言葉を失うしか無かった。
さよならだけ言って別れた恋人が、こんな事を考えていたなどとは思いもしなかったのだ。

「私はてっきり男性とお付き合いされるのかと思っていました。」
だから何も言ってくださらないのだと思っていました、と付け加えれば、彼女に笑顔で否定される。
どうやら私がこの一年間悩み続けた事は、とてつもなく無駄な事だったようだ。


先ほどまで、見つめるのが怖かったメイコさんの瞳を見つめてみれば、じっと見つめ返される。
それがなんだか、幸せに思えてくすぐったい。

見つめてしまえば、またメイコさんを好きになってしまいそう。そんな恐怖に体を引き攣らせる事なく、久しぶりに彼女の甘く澄んだ瞳を見つめた。

相変わらず睫毛が長くて綺麗だとか、少し肌が白くなったな、と色々考えているとメイコさんから声をかけられる。


「あんまり見ないでよ…恥ずかしいわ。」

「いえ、一年間焦らされた代償はしっかりいただきます。」
「そういう所も相変わらずね、ルカ。」
「メイコさん。」
「なに?」
「まだ私の事、好きですか?」


目の前の赤い彼女は、綺麗に微笑む。
やはり今の私達には、この日差しがそそぐカフェテラスがよく似合う。


・*・*・*・*・*・*・*・

メイコ誕生日おめでとう!おめでとう!本当におめでとう!
そして遅刻を謝りたいです…すみません。

言い訳すると、最初この話が救いようもない悲恋というか…ひどい感じだったので、さすがにこれは誕生日に相応しくないと思い急遽変更を加えていたんですよ…すみませ…

メイコは今年で7年目ですよね。ソフトとしてはかなり長寿…!でもまだまだ現役な姉さんが大好きです。



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