存在理由=貴女[ルカメイ] ルカは夜中にふと目を覚ました。 喉が酷く乾いていて、何か飲み物を探しに台所までたどり着けば、レッスンルームから僅かに光が漏れ出していた。 レッスンルームとはボーカロイド達が、歌の練習や楽譜の確認などに使っている部屋の事だ。しかしこんな深夜に誰かが使っている訳がないと考えたルカは、誰かが電気を消し忘れたのだろうと推測した。 このままにしておく訳にもいかないので、レッスンルームの明かりを消そうと部屋に入って驚いた。 なんとメイコがいたのだ。 「メイコさん…?こんな深夜に、何を?」 驚きつつも聞けば、メイコは落ち着いていった。 「とりあえずドアしめてくれる?音が漏れて皆を起こすかもしれないから。」 その言葉を聞き、ルカは慌ててレッスンルームのドアを閉めた。 これで防音設備が完璧なこの部屋の音は、外部には聞こえないのだ。 「そ、それで何をなさっていたんですか…?メイコさん。」 「何って…歌の練習よ。」 メイコは手に持っていた楽譜をルカに見せるように広げると、今度はルカに質問した。 「ルカこそどうしてここに?」 「たまたま目が覚めまして…」 「まぁ、そうよね。あんたパジャマだし、練習しに来たって感じじゃないわね。」 メイコが茶化すように笑えば、ルカは恥ずかしいのか頬を赤く染めた。 しかし上手い反論が思い浮かばなかったようで、話題を変えた。 「…メイコさんは、いつもこんな深夜に練習なさっているんですか?」 「大体そうね。集中できるし。」 「でも、メイコさんは昼間もずっと練習してらっしゃいますよね…!?」 ルカが驚くのも無理はない。 メイコはここ最近は食事の時間すら惜しんで、歌のレッスンに励んでいる。仕事熱心な彼女の事なので、皆あまり心配はしていなかった。しかし、こんな深夜にまで練習しているとなっては話は別だ。 「いつ寝ているんですか!?」 「ここ3ヶ月は……1日、1時間…くらい。」 メイコの答えにルカは驚愕するが、メイコはすかさず 「でも心配しなくていいわよ?私は歌える事が幸せだから。」 と付け加えた。しかしどうみても大丈夫な様子ではない。どこかやつれたようで、元々色白なメイコの肌はさらに白さを増していた。 誰がどうみても彼女の疲労が限界なのは明らかだった。 「…何が貴女をそこまで追い詰めたんです?メイコさん。」 「だから、私なら大丈夫だから。ルカは早く寝なさい。」 優しく諭されるようにメイコに言われたが、ルカは静かにメイコを睨んだ。 怒りとも愛情とも悲しみともとれるその表情は、今にも泣き出してしまいそうだった。 それを見兼ねたのかメイコは、仕方ない子ねとため息をつき口を開いた。 「…私、これからボーカロイドとして仕事ができるのか不安なのよ。」 どこか寂しそうに呟くメイコは、さらに言葉を続ける。 「どんどん新しい子が増えて、高性能になっていって……不安、だったのよ。いつか誰も私の歌を、聞いてくれなくなる日がくるんじゃないか…って。」 「…ッ!そんなこと…っ!!」 ありません、という言葉をルカは無理矢理飲み込んだ。ルカにはどうしても分かってしまうのだ。 最新式だった自分がどんどん世間から飽きられ、古いと見なされる恐怖が。 同じボーカロイドなら尚更ではあるし、きっと言葉には出さないが皆思っている事だろう。 だから無責任な否定など出来なかったのだ。 「だから、少しでも他の子よりも練習しておきたいの。」 「だ、だからってそんな体を壊すような…無茶な練習をなさったら…、」 「体は…もういいのよ。私は飽きられたくない…!世間から忘れられたくないのよ!!」 心配するルカを余所に、ヒステリックに叫ぶメイコ。 ルカはそんなメイコを悲しそうな瞳で見つめ、強く抱きしめた。 ありったけの力で、強く、強く、優しく、抱きしめた。視界はもうすでに涙で潤んでいた。 「メイコさん…、いつか私に教えて下さいましたよね?」 「は?な、何の話しをしてるの?私、もっと練習しなくちゃいけないから…」 離してよ、と言うメイコだったがルカは反対に腕の力を更に強めた。 「ボーカロイドは皆を幸せにするんだ、って…」 「……そんな事も言ったかしらね。」 「でも…ッ、でも!自分が幸せじゃなくちゃ意味がないとも教えて下さいました!」 メイコはルカの会話の意図が分かりハッとする。メイコの肩にルカの涙が落ちた。 「…メイコさん、今幸せですか?」 ルカが問えば、メイコは押し黙った。 「私、メイコさんの歌が好きです。力強くて、綺麗で…勇気を貰えるような、そんな歌声です。」 「……あんただって声質似てるじゃないの。」 「確かにそうですが、あの力強さはメイコさんしか出すことができません。」 ルカはキッパリと言い放てば、メイコは真剣にルカを見つめた。 それからルカは腕の力を少し弱めた。 「それに、メイコさんの事を誰が忘れても、私はずっとメイコさんのファンで在りつづけます!」 これは絶対です!と意気込むルカを見て、ようやくメイコは微笑んだ。 そしてルカの綺麗は肌に柔らかく口づけた。 「仕方ないわね。練習は程々にしとくわよ。」 「え…どうしてそんないきなり…」 「だって、私ファンは大切にするもの。」 あんたは私のファンなんでしょ?と微笑みかけるメイコはどこかスッキリしたような顔をしていた。 それを見てルカも微笑んだ。 「それでこそメイコさんですね!」 「うっさいわよ。ルカも早く寝ないと明日は仕事でしょう?」 「う…そうですけど、メイコさんと一緒に寝たいです。」 甘えたように擦り寄るルカに、メイコは本日二度目のため息をついた。 「仕方ないわね。いいわよ。」 「え…!い、いいんですか!?今日のメイコさん何だか素直すぎません?」 驚き困惑しているルカに、メイコは幸せそうに微笑んで言ったのだった。 「馬鹿ねぇ…。あんたは私がいないと熟睡出来ないくせに。」 ルカは肯定してから、また笑った。 ・*・*・*・*・*・*・ メイコが旧式な事を気にしていて、新人に追い抜かれていく事に怯えていれば、美味しいかな…と思って書いたのがこれでした。 うむむ、スランプ気味ですすみません。 イケルカにしたかったんですが、後半無理やりだったりしたので…あやふやに…… 機会があれば納得いくまで書き直したいです…! [*前へ][次へ#] |