目覚まし時計はピンク色[ルカメイ]
私の朝は、いつもこの一声から始まる。
「そろそろ起きて下さい、メイコさん。」
その声を聞きながら、少しずつ意識がはっきりしていく時間が私は好きだ。
「…あと、ごふん、だけ……ねかせて」
「駄目です。メイコさんのあと5分は長いですから。今日こそはすぐに起きて頂きますよ!」
そう言いながら、私の部屋のカーテンを慣れた手つきで開けるルカ。少し大きめに設計された窓からは、起きぬけの私には強すぎる日差しが入ってきた。
思わず目を閉じる。
「うーん……ルカ。眩しい……。」
「それはもう昼過ぎだからですよ。早く朝食召し上がって下さい。」
どうやら今日の食事当番はルカだったらしい。
食事当番は食事を作るのは勿論、食器の片付けまでしなくてはならない。そのため、私が食べてしまわないと片付けができない。
つまりは綺麗好きなルカにとっては我慢ならないという事だ。
「ほら、起きて下さい。今日は天気がいいので布団も干しますから。」
「…あんたは働き者ね。」
「メイコさんが家事をしないだけです。」
「失礼ねー。私だってたまには箸並べるくらいはやるわよ。」
「……小学生のお手伝いですか?」
そんな軽口を叩き合いつつ、ノロノロと布団から抜け出す。
ルカの桃色の髪から、ふわりとシャンプーの香りがした。
なんだ、しっかり朝シャワーあびたんじゃない、と思う。
そのせいで私の頭の中には、悪戯心が沸き上がってきた。
「ルカー。私、腰痛くて起きれない。」
そう言ってベッドにもう一度倒れると、スプリングが、大袈裟にぎしりと鳴った。
「だ、大丈夫ですか!?まさか昨夜の……」
ルカは、本気で心配そうな顔で覗き込んで来る。
私の本当は大して痛くもない腰を見つめて、冷やしますか?なんて言いながらオロオロしている。
さっきのキビキビとしたルカとはまるで違っていた。
「メイコさんすみません…。私が昨日酷くし過ぎたのかもしれません……」
申し訳なさそうなルカの顔が可愛くて、思わず腕を掴んでベッドに引き入れた。
またスプリングが鳴る。
二人分の重みを確かめるように。
「メ…メイコさん?」
驚いたように目を見開くルカ。
私はその様子が可笑しくて、くすりと笑いながら言った。
「嘘よ、嘘。腰なんて痛くないの。ただ、私って好きな子は虐めたくなるタイプなのよ。」
「……騙しましたね。メイコさんは酷い人です。」
そんな台詞を言いながら、拗ねるルカ。けれども心なしか、微笑んでいたように見えた。
拗ねた振りをしていても、分かってしまうのは、長い間一緒に居たからだと思いたい。
「そうね、酷いかも。酷いついでに、私はあと5分でいいから寝るわ。」
そう言って、ベッドの中のルカを抱きしめた腕に力を込める。
暖かく柔らかで、私より少しだけ小さな身体は抱きしめていて気持ちが良い。
「……やっぱり寝るんじゃないですか。駄目だと言ったはずですが…。」
「じゃあ嫌だって言って離れて、私を起こせばいいじゃないの。」
「……できるはずありません。」
そうよね、あんたはそう言うと思ってたわ、とずるい私は言う。
香る桃色の髪を撫でると、今度はルカの方がしがみついてきた。
「まったく……私がどれだけ我慢を重ねてるか、メイコさんは分かっていないんですね。」
「なんのことかしらね?」
わざと惚けた振りをすると、ルカに唇を塞がれた。
そして一気に体制が変わり、私が押し倒されるような形になる。
「ちょ…ルカ?え?」
「ふふ……メイコさんたらお可愛らしい!昨日のでは足りなかったんですよね?」
「は?あんた何いって……」
「我慢していましたが、限界です。頂きます。」
「違っ…私はあんたとゆっくり過ごしたくて……」
「もう遅いですよ。誘ったのはメイコさんですから。」
一旦スイッチの入ったルカが止まる訳もなく、私がすっかり冷めた朝食に手を付けたのはその3時間後の事だった。
5分が3時間になった訳だが、起こそうとしていたルカはと言うと上機嫌で布団を干している。
ルカは綺麗なアルトで鼻唄を歌っていた。
こんなにご機嫌なルカは珍しい。
それに反して私の機嫌は悪かった。
その原因は勿論、
痛む腰。掠れる声。
「まったく……。人の気も知らないで……」
自傷気味にそう呟くと、玄関の方から仕事帰りのミクとリンの声が聞こえてきた。
ああもうそんな時間か、と思いながら、
皆の頼れる姉という私になる。
妹には格好悪い所は見せられない。
痛む腰に鞭打ち、妹達にお帰りなさいを言うために、玄関へと足を進める。
「あ、そういえば……私結局……」
5分寝られなかった、とふと思った。
そこら辺も計算済みだったのだろうか、と思うと負けたような気になった。
やはりルカには敵わない。
諦めたように、小さく幸せなため息をつくと、
私は笑顔で何事も無かったかのように、可愛い妹達を出迎える事にしたのだった。
・*・*・*・*・・*・
ほのぼの甘を貫き通せなかった…!
ルカ様のせいですね。
どう頑張っても、ルカ攻だとルカが襲う形になるのはきっとルカの……長所?
皆の前ではカッコイイめーちゃんでも、たまには甘えたいんですーっていう話でした。
ではでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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