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[EternalKnight外伝]薄雪草の唄-ウスユキソウノウタ-
05-通常の六倍
<7/3 白花家-楸人の脳内->

目の前に広がる、小さなグランドと、いくつかの遊具、校舎と呼ぶには小さすぎる建物。

―――夢かな。たぶん昔の、幼稚園に通っていた頃の記憶だと思う


幼稚園児が六人

膝を抱えるようにしてうずくまる一人を中心に、取り囲むように五人。

青いスモッグ、赤い名札、黄色い帽子。園児はそれぞれ同じ服装をしていた。

ただ、真ん中の一人だけは違った。

みんなと同じ黄色い帽子の下の髪が、明るい茶色だった。

ただ、それだけ。それだけの理由でいじめられていた。

「なーかまはーずれみーつけた!」

「なんでおまえのあたまう○こ色なん?」

「「○んこいろーあたまうん○いろー」」

「うわ!あたまにう○こついてる!くさっ」

取り囲んだ五人は、それぞれ悪口を言う。さすが幼稚園児、う○こ大好き。

すると、少しはなれた所から声がした。

「ぬぁにしくさっとんど!がきども!いてこましたろかい!!」

……幼稚園児の頃の僕だった。

この頃の僕は、父さんと見た極道映画にハマり、影響されまくりだった。今では僕の消し去りたい過去のひとつだったりする。

「うるぁ」とか「ごるぁ」とか言いながら適当に手足を振り回す僕。それに怖気付いた、というか引いた五人は一目散に逃げ去った。よくいじめられなかったな、僕。

「だいじょうぶか?ぼうず」

自分も思いっきりボウズなのに、真ん中にいた茶髪の子、こーちゃんの頭を撫でる。この頃は、僕のほうがこーちゃんより大きかったんだ。

今では、まぁ、こーちゃんのほうが少しだけ大きいかな?うん、少しの差だ、まだまだいけるはずだ、うん。

「うん、だいじょうぶだよ、くみちょー」

・・・ ・・・もうほんとイタイなぁ。

「じゃぁよかった!いっしょにかえろ!こーちゃん!」

今では到底浮かべることができそうにない穢れなき笑顔と共に、こーちゃんに右手を差し出す僕。さすが幼稚園児、もう素に戻ってる。

「うんっ!あきちゃん!」

今のこーちゃんからは想像出来ないくらい純粋な笑顔で僕の手を取るこーちゃん。そう言えばこの頃は二人ともあだ名で呼んでたんだなぁ。今では僕だけだけど。

二人で並んで手をつなぎながら歩き、僕は言う

「こーちゃん、わしらはずっとともだちじゃけぇのぉ」

あ、元に戻った。というかこれ、もはやヤ○ザでもなんでもないよね

「ほんとに?じゃぁゆびきりげんまん!」

そう言いながら小指を僕に向けるこーちゃん

「いいよ!」

また素に戻った。入れ替わり激しいね、僕。

「「ゆーびきーりげんまん うそついたら」」

つないだ小指を上下に揺らしながら声を合わせる二人

「はーりせんぼんのーます」

ここだけはこーちゃん一人だった、何故かと言うと、このとき僕は

「おとしまえつーける」

とか痛々しいこと言ってたから。

「「ゆびきった!!」」

最後は同時に言って指を離す二人。

「あきちゃん、おとしまえってなに?」

と、こーちゃんが聞く。まぁそりゃそうだよね。

「おとしまえってね、えんこつめるんだって」

さすが幼稚園児、微妙に間違ってる気がする。

「えんこってなに?どこにつめるの?」

こーちゃんが聞く。

「ん〜よくわかんないけどね、おとうさんとみたえいがだと、ほうちょうでゆびきってたよ」

あぁほんっとイタイなぁ僕。というか父さんも幼稚園児に極道映画なんか見せるなよ…

「それは…いたそうだね…ぜったいいやだ」

本気で怯えながら言うこーちゃん。この頃はツッコミレベルが低いからか、映画に関しては全くツッコまない。それでもこーちゃんかっ

「うん!だからずっとともだちだよ!!」

繋いだ手を大きくブンブン振って笑いながら言う僕。今では恥ずかしくてこんなこといえないなぁ

「うん!!」

それに笑顔で答えるこーちゃん。今やると多分こんな反応してくれないだろうなぁ。今度やってみよう


―――だんだん、こーちゃんの笑顔が、繋いだ右手が形を歪めていく、どうやら目覚めが近いみたい。

―――さよなら、僕の、痛々しくて大切な記憶
















<7/3(水) 白花家-リビング->

[カシャッ]

僕のすぐ近くで何かの音がして光る

[ピピッ]

今度は違う種類の音。さっきと同じような光

[ピロリン♪]

また、違う種類の音。でも今度は光らなかった

なんだろうと思ってよく見ると

直径2センチくらいの黒い穴が開いた縦15センチ横5センチくらいのピンク色の長方形が、ぼやけた視界に映った

なんだろう、どこかで――どこかで見たことがある気がする

「―――ゃん?―――き―る?」

また、新しい種類の音。というかコレは、よく聞き取れないけど、どこかで聞いたことがある気がする女の人の声かもしれない

「あ――ん?あ―ち―ーん?」

さっきと同じ音――女の人の声がしたと思ったら

ぼやけた視界が揺れ、脳が揺れ、意識が揺れる

揺れた意識は次第に覚醒していき……

はっきりし始めた視界にその姿を捉える

「起きた?あきちゃん」

少し涙目になった姉ちゃんが僕の肩をガッチリ掴んでいた

さっき揺れたのは肩を揺らされたからなのかな

とかまだぼんやりした頭で考えながらもう一度姉ちゃんを見る

「どうしたの?姉ちゃん」

まだ少し目が潤んでいたし、さっきから肩をガッチリ掴まれっぱなしだ

「どうしたのって・・・あきちゃんが急に立ったまま動かなくなるし、呼んでも返事しなかったから」

そこで一息置き、姉ちゃんの目が一瞬妖しく煌めく―――ッ

「心配だったんだからぁぁっ!!ってあれ?」

僕がさっきまで居た位置まで踏み込んで両腕をクロスさせながら叫ぶ姉ちゃん。心配するも何もただ寝てただけだと思うんだけど。

―――あと一瞬後ろに跳ぶのが遅かったら姉ちゃんの必殺☆姉式愛情表現(と書いて対弟用ギロチンと読む)でさっき戻ったばっかりの意識を刈り取られるところだった

姉に締められただけで意識が飛ぶとかありえねなくね?とか思ったソコの君っ

アレをなめちゃいけないっ身長(自主規制)センチの僕にとって遥か頭上から迫る姉ちゃんの腕は凶器以外の何者でもないのだっ

一見勢い任せに見えるがその実、その両腕は僕の頚動脈を正確かつ迅速に捉えるのだっ!

そう、アレは確実に僕の意識を刈り取るギロチンなのだっ!!

ちなみに攻略のポイントは姉ちゃんの目が光ったあたりで跳ぶことかな

獲ったと思って油断して僕の肩を掴んでる手の力が緩むからね

まぁこの辺のタイミングは慣れかなぁ。ちなみに僕は習得に3年くらいかかったよ

とか脳内で僕以外の人が生きていくためには全く必要ない攻略情報とか流している間に姉ちゃんが何やらゴソゴソ動き始め、

[ピロリン♪]

またあの音がした。

「ハイあきちゃんっ視線こっちにプリーズっ!」

例の直径2センチくらいの黒い穴が開いた縦15センチ横5センチくらいのピンク色の長方形を右手に持ち、左手を真っ赤にした顔に当てながらキャーキャー言う姉ちゃん

なるほど、さっき見覚えがあるとか思ったピンクのアレは姉ちゃんのケータイだったのか

とか思いながら黒い穴に見えたケータイのカメラの部分を見ながら思う

姉ちゃんはというと

「いぃっ![ピロリン♪]いいよあきちゃんっ!![ピロリン♪]次こっちヨロシク!!![ピロリン♪]」

ハウス栽培で作った完熟トマトよりいい色なった顔に手を当ててなんかクネクネしながらいろんな角度からケータイを僕に向けてくる

ん?さっきから[ピロリン♪]とか鳴ってるてことは……

「もしかして撮ってる?」

そうとしか考えられないけど一応聞いてみる。

「当たり前じゃないっ[ピロリン♪]今この瞬間を撮らないで[ピロリン♪]何のために[ピロリン♪]ケータイに[ピロリン♪]カメラが[ピロリン♪]付いてると[ピロリン♪]思ってるのっ[ピロリン♪]」

「今この瞬間って?」

風呂上りの僕ってことかな?別にいつも見てるしそんなに変わらないんじゃないかな?

とか思いながら姉ちゃんが無言で差し出した鏡を見て理由がわかった

鏡に映っていたのは……

「……ひつじ?」

角付きのフードがついたひつじ型着ぐるみパジャマ半袖verを着た僕がそこにいた

これを着てるってだけで死にたくなるのに、よく見ると

「これボタンが逆なんだけど?」

普通ボタンは服の右半身に当たるほうにあって左が上になるはずなのに

この着てるだけで死にたくなる服は右半身側が上になってる、つまりボタンが左側にある。つまり―――

「当たり前じゃないっ!だってその服女の子用だもんっ!!」

―――そういうこと

要するにこの服は、着てるだけで死にたくなるだけでなく、

女性用の半袖で、しかもジャストサイズって事実が加わって死にたさ三倍!

着るだけで通常の三倍死にたくなるってことかっ!

もう赤く塗って角でも付けてろよって感じだねっ!白花家の白いパジャマはバケモノか!みたいなね

とか若干鬱になりながらも鬱の元凶である姉ちゃんを見ると

顔の色が既に完熟を通り過ぎてなんかクネクネする速度も上がっていた

うわっ鼻血出てるし…

もう見た目的には完全アウトだよ……

「どうしたのあきちゃん?まさか絶句するほどその服気に入ってくれた!?」

残念。中身もアウトでした。というかコレ弟に着せる時点でアウトだとは思うけどね

「全然。というかこれ着て嬉しいとか男として、人間として、生き物として間違ってると思うよ」

コレぐらいキツ目に言えばちょっとは僕の気持ちも

「そう!良かった!今度はもっとキャワイイの着せてあげるからね!!」

まぁ届くわけなく、というか気持ちどころか言葉すら届いてないや。キャワイイてなんだキャワイイって

僕の抗議を華麗にスルーして姉ちゃんは、小さめの黒のボストンバックから手のひらサイズのデジタルカメラと、いかにも高そうな一眼レフを取り出した。そのまえに鼻血拭けよ。

「え?」

「ん?」

いくらなんでもさすがにそれはやりすぎじゃないかな?一眼レフって……

「それ、いくらしたの?」

さすがに聞かずにはいられなかった。大きさとか見てるとけっこうなお値段してそうだし

「ん〜あわせて40万くらいかな?こっちが30万くらいで、こっちが10万くらい」

一眼レフと手のひらサイズのデジタルカメラを交互に見せる姉ちゃん。って

「高っ!さすがにそれはやりすぎじゃない!?」

僕も詳しくは知らないけど、さすがに30万は高すぎだと思う

「そぉ?まぁでも綺麗に撮れるんだったら多少のお値段は仕方ないわよ」

「綺麗に撮るって何撮るの?」

まさか…もしかして…

「もちろん、あきちゃんに決まってるじゃないっ!!」

やっぱり…

「というか、既にさっきあきちゃんが立ったまま寝てるときに撮ったんだけどね、ホラホラ」

嬉しそうにデジタルカメラの画面をこっちに向けて見せてくる姉ちゃん。確かに立ったまま寝てる僕が写ってた。

[カシャッ]とか[ピピッ]とかはこの二台の音だったのか

「もぉ、あきちゃんたら立ったまま寝ちゃってかわいかったよ!?もぉ"むぅぁ、こーちゃん"とか寝言言ったときとかなんで姉ちゃんじゃないの?って軽く殺意が沸くくらいかわいかったわよ!!」

かわいいのか、殺したいのか、はっきりしてください。どっちも嫌だけど。

「あぁん現像が楽しみだわぁぁん」

なんか恍惚状態に突入してる姉ちゃん。どうでもいいけど鼻血が固まってきてる。

っていうか現像するのかっ!写真屋さんに僕のアレなシーン満載のフィルム持ってくのかっ!

「どぉかお姉さま、それだけは止めてください。この通りです」

土下座しながら言う僕、お姉さまとか初めて言ったよ。頼むからそれだけ嫌ってことをわかって欲しいっ!届け我が思い!!

[カシャッ]

―――え?

[ピピッ]

―――まさか

ゆっくり顔を上げ、前を見る。

姉ちゃんが一眼レフを構える

[カシャッ]

すぐそばの机の上のデジカメに持ち替える

[ピピッ]

画面を見てしばし悦に入る。固まった鼻血の上にさらに鼻血が出ていた…

しばらくしてハッと我に返り、言った

「さて、いい感じに撮れたし!晩御飯にしますか!?しちゃいますか!?」

上がりすぎて意味不明なテンションに突入した姉ちゃんに、僕はもう、何も答えることができずに、土下座した姿勢のまま固まった。勿論、ひつじのきぐるみパジャマで


「―――あぁ。」


ホントもう、通常の三倍、いやその倍くらい死にたかった。

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あきゅろす。
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