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[EternalKnight外伝]薄雪草の唄-ウスユキソウノウタ-
02-生きる覚悟
<7/3(水) 帰り道>

――気が付くと僕はいつもの帰り道にいた。

そこにはもちろん――

グルゥァォォォォォオオオォォオォォォォオゥ!!!

――アイツがいた

『さぁ、いくぞ少年』

直接頭の中に響く声――《白秋》の声がした。

でもおかしい、僕はあの真っ白な空間から出てきたのに、辺りを見回してみても《白秋》の姿はどこにも見当たらない。

『??何をしているのだ?少年』

声は直接頭の中に響くからどこから声を発しているのかも分からない。

『あぁそうか。すまない、説明がまだだったな。』

あたりは薄暗いけど、アレだけ白一色だとすぐ分かるはずなんだけど……

『私はここだ、少年。』

「ここってどこ?」

右にも左にも、前にも後ろにも、あの白い振袖は見当たらない。

『……右手を見てみろ』

言われて右手を見てはじめて気が付いた。僕の右手には――

柄(つか)の縁(ふち)から糸が伸び――その先に白い短冊が付いた

吸い込まれそうなくらい白い木でできた両方の縁が平らな木刀が握られていた。

「いつの間に?」

あの真っ白な空間に行く前、僕はこんなものもっていなかった。

というか学校にこんな凶器を持って行くはずないし。

『君が私の中から出てきたときは既に君の右手に握られていたよ。』

私の中って?あの白い所のこと?

『そうだ、具体的にはあとで説明する。』

説明不足すぎだよ……

あとでまとめて聞くとなると相当長い時間になりそう。

「それで、結局どこにいるの?《白秋》」

『先ほど教えたではないか、右手のソレが私だよ』

《白秋》がとんでもないことを言い出した。

「ぇ?コレが《白秋》!?じゃぁさっきまでの白い振袖着てた女の人は?」

僕の幻覚か何かだったの?

『それも私だ。』

――もうわけがわかんない。思わず下を向く僕に《白秋》は頭の中に直接語りかける

『すまない、それもあとで説明する。今はとりあえず顔を上げろ少年――来るぞ』

言われたとおり顔を上げると、バケモノ――魔獣が急に速度を上げてこっちに向かってきてた。

――完全に忘れてた。

木刀を使うのなんか初めてだけど、とりあえず適当に構えてみる。

『!?何をやっているっ少年っ、早く鞘(さや)から抜けっ!!』

鞘?なんで?

「木刀に鞘なんか付いてるの?」

『木刀ではないっ!!とりあえず鞘から抜けっ』

なんか怒ってるっ。

「ってえぇっ!?《白秋》って木刀じゃないの!?」

見たところ継ぎ目なんてどこにも見当たらないんだけど……

『分かったらさっさと鞘から抜けぇっ!!』

――なんか今日は怒られてばっかりだ

とりあえず《白秋》を地面と平行に構え、

短冊がぶら下がっている糸が付いている縁を右手で持ち、

開いた左手を《白秋》にあててスライドさせると、

縁から30センチほどのところで少しずれた。

――見つけた

右手は柄の真ん中あたり、左手は鞘の縁にあて―― 一気に引き抜く

[シャン]という小気味の良い音がして、《白秋》の振袖と、肌と、髪と、同じ色

――純白の刀身が露わになる。

『―――さぁ、いくぞ少年』

僕の頭の中に落ち着いた《白秋》の声が響く。

「うん、いくよ《白秋》」

その言葉を合図にしたかのように、

魔獣が僕の頭めがけて右腕を

――まっすぐに振り下ろす

[ブォン]という風を切る音に続いて

何かと何かがぶつかり合う[ガキィィン]という激しい音がした

―― 一瞬、僕には何が起きたか分からなかった。

僕の頭に向かって振り下ろされたはずの魔獣の右手は

とっさに反応して挙げた僕の左手に握られた《白秋》の鞘によって防がれていた。

「なっなんで?」

自分で防いだのに、自分が一番驚いていた。

理由は簡単、反応速度がありえないくらい速い。

危ないと思った瞬間には既に僕の左手は魔獣の一撃を防いでた。

それに、あの丸太みたいに太い腕と僕の、自分で言うのもなんだけど華奢な腕が対等に渡り合ってる。

というかむしろ――

「僕のほうが上?」

グゥオォォ

魔獣がくぐもった声を漏らす

ってことは多分、今の力が全力

それに対して僕のほうは、ただただ左手を挙げてるだけ

「どうなってんの?」

相変わらず説明不足な《白秋》に聞いてみる。

『契約による、身体能力の増幅だ詳しくは

もう何度目だろ、このパターン

ってことで《白秋》が言い切る前に言ってみる

「あとで説明してねっ」

『むぅ、そうだなあとで説明する。』

ちょっと残念そうな《白秋》。なんか悪いことした気分になってきた。

『それよりも少年、今は目先のことに集中しろ』

気づいたときには魔獣が僕が塞いでる方とは逆の

左腕を大きく振り上げていた

「っっやばっ」

とっさに左足を軸に右足を思いっきり前に踏み込み、姿勢を低くする

さっきまで僕の頭があった位置当たりを太い腕と鋭い爪が通る。

「っっはぁ危なかったっ」

今まで経験したことないくらいギリギリな状況に思わず背中に冷や汗をかく

そして、姿勢を低くした僕の目の前にはアイツの脇腹(わきばら)が、

さらに右手は鞘で防ぎ、左腕はさっき空を切った。

要するに、ガラ空き。

僕が右手を振るうだけで、たぶん目の前のコイツは――

『迷うな、少年』

《白秋》の落ち着いた、冷たい声が僕の頭の中に響く。

『迷うな、少年。君は言ったはずだ、"生きる覚悟をする"と』

そう、僕は言った

"生きたいから。かな、たぶん殺さないと、殺される"と

"生きたいから。そう、誰かの命を犠牲にしてまで僕は生きたい。"と

――"生きる覚悟をする"と

「ごめんね」

理解できるかどうかは分からないけど目の前の魔獣に謝り、

――――――右足を踏み込んだ力を生かし、腰のひねりを加えて左下から振り上げられた《白秋》は、

僕の右手に、肉を斬り、骨を断つ感触を残し、右上へと振りぬかれた。

グギュヲオオォオォォオォォォォ

どことなく悲しみの色を帯びた断末魔が響き渡り、僕の鼓膜をビリビリ震わせ、胸の辺りに嫌な感覚が残った。

そして、その純白の刃が通った痕には、さっきまで魔獣だったモノが僕に向けて真っ黒な血のシャワーを降りかけ、静かに崩れ落ちた。

『辛いか?少年。』

吐き気がした。

『苦しいか?少年』

まだ胸の辺りに、嫌な感覚が残っていた。

『それが命の上に立つとういうことだ、少年。』

命の上に立つ。何かを犠牲にして自分が生きる。

この感覚が、命の上に立つということ。

「辛くて、苦しくて、・・・重い。」

初めて感じた命の重み。こんなに重いモノだったんだ・・・ ・・・

『その感情を忘れるな。それを忘れたとき、君は君でなくなる。』

僕が、僕でなくなる。それは、僕の心が、今の僕でなくなるということ。

「うん、忘れないよ。絶対忘れない」

『それでいい、私は、君には今の君のままでいてほしいからな』


返り血を浴びて冷え切った今の僕には、《白秋》の優しい声がただだた温かかった。




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