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novel
愛し愛され









「…うおーい、新八ー?神楽ー…」



朝起きて、いつもぎゃあぎゃあうるさい声が聞こえなかった

新八はともかく、神楽はそりゃあもううるさいから、いない事がすぐ分かる


それに、今日は新八は起こしに来ない

毎日毎日続いていて最早習慣と化していただけに、こないと気になる

やっぱり朝は新八が起こしに来てくれないと起きる気はしないし、神楽や定春がうるさくないと部屋を出る気分にもならない

ついでにテレビの雑音も今日はない










何だ、この感じ


目頭が熱くなる





この静けさのせいか



この…嫌に懐かしい感じは












……嗚呼、思い出した






これは







俺が一人だった時の朝だ





まだあいつ等がここにいない頃の朝





久し振りに静かな朝を迎え、懐かしいのと同時に少し寂しい気持ちが心に渦巻いた



一人だった頃には味わう事の無かった一つの家庭のような暖かさ




朝、何もしなくとも漂って来る味噌汁のいい匂いも


俺を起こす厳しくて優しい声も


それを茶化すような茶目っ気のある声も






全て、知らなかったから




そしてそれも今では当たり前になっている




朝はあぁでなくちゃな、と苦笑いを浮かべた



知らないうちに、こんなにも俺の周りに人がいる



守りたいと思える存在が出来ていた事に、今改めて気付かされた気がした







何があったのか、今日は奴等がいない


いつもは騒がしいせいで聞こえなかった鳥の囀りが今日は聞こえる




朝ってのは、アイツ等がいないだけでこうも違うか


いや、朝だけじゃない



昼も、夜も




毎日が違うのか







考えただけで柄にも無く胸が苦しくなった













カラカラ…






いつもは新八が俺を起こしに来て、そのまま襖は開けっ放しだ

だから自分で開ける事は殆ど無い

その襖を、自分で開けた



気が抜けるような音が響くのが、何故か嫌だった



襖を開けても、やはり味っ気の無い居間


すっからかんで、空き家のようだ



アイツ等がいたから、居間も、洗面所も台所も



狭く感じていた




一人だと、何て事ない




広過ぎた位だ




一人でテレビを見たり、飯を食うならソファは2組もいらない


一人分の靴をしまうなら、あんなデカい靴箱はいらない




アイツ等がいたから、この家を狭いと感じられて



此所がただ生活をするだけの場所じゃなくなった




色の無かったこの家に、一人一人と増えて行くにつれて少しずつ色が塗られて行った






それと同時に



俺の心も満たされていた



隙間だらけだった心を、埋めてくれたのはアイツ等だ



これが


必要って事か





俺は幸せモンらしい














「…あれ、銀さん?」



突然した聞き覚えのある声に、俺の肩は一瞬飛び上がった

振り向けば、居間の入口に新八が立っていた


手にはスーパーの白い袋



「銀さん、自分で起きたんですか!?」


目を丸くしてニコリと笑いかける新八が、物凄く愛しい




「新八ー…アレ銀ちゃん!!一人で起きたアルカ!?」



新八の肩口から、神楽がぴょこっと顔を出した


まるでガキ扱いだ



…けど



やっぱり、コイツ等がいる朝が俺には性に合っている



「偉いじゃないの!!!今度からも一人で起きるのよ!!!」

「お母さん?」




ふざけている二人を見ると物凄く安心する自分がいた






怖かったのかも知れない



この家から騒がしい声や音が聞こえなくなるのが



コイツ等がいなくなるのが




嗚呼、もう俺はガキでいい











「…あ、そうそう!!銀さん喜んでください」

「今日の朝は銀ちゃんの大好きな物ばっかアルヨ!!!」

「……は?」





新八の持っていた袋を神楽がひったくって、俺に見せた




「銀ちゃんの大好物アル!!たまには甘やかすのも悪くないと思ってナ!!!」



ニカッと歯を見せて笑う神楽




「昨日の仕事、人一倍頑張ってくれましたから。そのご褒美です」



優しい目で俺を見上げる新八






心が柔らかくなる


今まで蓄積されて来た不安や知らない間に感じていた悲しみを




コイツ等が全て無かった事にしてくれる




壊す訳じゃなくて



優しく暖かい心で包み込んでくれる










俺は知らないうちに






家族を手に入れていたんだ






END..



あきゅろす。
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