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短編
歪んだ記憶
昔話をしよう、なぁに誰もが知ってるお話さ。





それは、悪い魔王を倒そうと立ち上がる勇者の話。





勇者の最後は全て"曖昧"なんだ。






"必ず"、終わりが複数あるんだ。










じゃあ勇者の、彼の本当の最後は____________?



____________________________








私は幼い頃、魔王に故郷を襲われた。





なんとか生き残ったのは私一人で、家族も友達も皆死んでしまった。






『と、さ……ヒックっかぁさん…うぅッッ!!…』








____許さない、許さない、許さない!!!






魔王、僕はお前をこの手で必ず____








『____殺してやる!!!!』









それからは死に物狂いで力をつけていった。






心も体も強くして、私と共に奴を倒そうと力を貸してくれる仲間達にも出会えた。









そうして、ついに____________










__ザブシュッ!!



「ッグア"!!!」





この時が来たのだ…






深手を負った魔王に勝利を確信した私だったが…腑に落ちない事が一つ






「…貴様、私を愚弄しているのか…」






何故、私に攻撃しない?





…ハッ、大方本気を出さなくても、人間の私はお前に勝てる事などできないと高を括っていたのか…






ッどこまで人を、私を侮辱する気だ…!






ギリっと歯をきしませながら、私の問いかけに何も応えずただ蹲る奴に近づき漆黒の髪を掴み上げ、露わになった首に聖剣を突きつける。







必然的に顔を上げる魔王に、これ以上ないほど酷く嫌悪感を覚えた。






こいつが、魔王






村を焼いた、父さんを母さんを友達を殺した…っ!!!







ありったけの憎しみを目を通して、奴の瞳にぶつけると__一瞬だけ、漆黒に歪みが生じた気がした。









その見覚えのある色に驚くが、魔王の次の言葉が一番驚いた。








「や……と、……死ね、る……」








やっと?







どういうことだ、お前は自分の死を望んでいたのか?






何故そんなホッとした顔をする






何故…っそんな色で、私を見る!!







騙されるな、騙されるな







こいつのしてきた事を、思い出せ…!








「………は、そんなに死にたいのなら…」









ゆっくりと剣に力をこめる







ジュワジュワと浄化していく音が耳に届いた。







それが何故かやけに耳障りで、首から聖剣をはなして、剣先を天に向ける。











「___お望み通り、殺してやろう!!!」









そう叫んだと同時に、剣を振り下ろした。









奴の体に刃があたった、その時だった










___キイィーーーン





「ッあ"ア!?」






突然の頭の痛みに思わず頭を抱え込み蹲る。







痛い痛い痛いっな、んだこれは…頭が、割れ…る……!!!!







痛みに耐えるためにギュッと目を瞑っていると、暗いはずの視界に何かが映し出される。









それは何処かの村の様子だったり






それは何処かの海沿いだったり





それは何処かの部屋だったり








それらに唯一共通するのは、一人の男








男はどんどん赤ん坊から少年へ、青年へと成長していく








これは、私の記憶…なのか?






違う、違う違う違う違う違う違う違う!!!!







私は知らない、こんな記憶っ…!






だって私は覚えている!





魔王が、私の大切な人達を____




























本当に、こいつは私の故郷を襲ったか?












忌まわしき故郷を襲われた記憶が、グニャリと歪む












じゃあ、じゃあ今までの記憶は…____














そんな時、不意に止まった景色は何処かの草原で














そこには、男の隣にもう一人の男がいた。












その、男は_______











_____











___バッと目を開けてみると、目の前には赤黒く染まった奴










「ぁ…」










知っている、私は……"俺"は………










「あ、あァ…?」











___カタカタと手が震えて見てみると、奴の血がベッタリとついていて…












だってそいつは…………俺の、大切な______










「ぁあ"ァあああ"ァアァアア"ア"!!!!」











嫌だ、そんな、なんで…!!!













勢いよく目の前の存在を掻き抱く。










黒い赤が、俺の服に手に染み込んでいく…








何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!!!!




何故俺はお前を、あれほどまでに愛おしく思っていたこいつを忘れてっ…!!!あまつさえ、こいつが故郷を襲ったなどと…!!














「っ死ぬな!死なないでくれ…!!」













しかし、どんなに願っても、祈っても、目は覚めなくて…暖かい体温は戻らなくて…















あああああ"ああああ"あ"あああああ"ああ"あ"!!!!!!!












ガシッとこいつの血で染まった、不気味に光る鉄の塊を握る。














ごめん、ごめんな思い出したよ、俺…













「今、そっちにいくからな…」















抜け殻になったこいつに優しく口づけをしてから、剣先を己の心臓にむける。




















「_____今度は、ちゃんと」






















___グジュッ!!!





























お前 『_お前に、名前を呼ばれたかったな…』

































____














あいつの血と俺の血が混じり合うのを見て、少し微笑むと














俺は静かに、呼吸をとめた

























______誰かの、謝る声を聞きながら

















________________






昔話をしよう、なぁに誰もが知ってるお話さ。







それは、悪い魔王を倒そうと立ち上がる勇者の話。



__ソレハ アワレナ オハナシ








これが勇者の









本当の最後 真実のシナリオ









不可思議に









複雑に混ざり合って










偶然にも_シツゼンニモ_蘇りしは、遥か昔の遠いキオク




















__さぁ、次のお話をはじめよう__













END






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あきゅろす。
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