R&C-薔薇と冠-
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「──み、君っ、大丈夫?ねえ、ちょっと!」
肩を乱暴に揺すぶられて、わたしは漸く声の主に視線を合わせた。
知らない人。
男の人。
わたしを高い位置から見下ろすその目は、分厚すぎる眼鏡のせいで色すらもわからない。
オレンジ色の髪だけが色鮮やかに目立っている。
──でも、慣れてる。顔を隠した人なら、よく知ってる。──
靄であるわたしは、同じく靄である頭でそう思った。
肩を掴まれたまま、ぼんやりと視線だけ彷徨わせる。
大きな、しかし酷く静かな街だった。
声がしない。
人だけは大勢いる。
私とこの人と、彼にすっぽり隠れてしまう位置に、桃色の髪の女性。
それから、一様に黒い服を着た人達が壁のように向こう側にいる。
小さな桃色の髪の人はわたしとこの人に背を向けて、黒い壁と向き合っていた。
わたしは一度瞬きをして、視線を彼に戻す。
「ええと……だ、大丈夫、なの?君、」
大きな彼が引きつった口から声を出した。
わたしの肩にあった手はぎこちなく離れていく。
わたしは再びゆっくりと瞬きをして、今口にされた言葉を噛み締めた。
だいじょうぶ。
わたし、が、大丈夫。
わたしに言った、今、この人は、言葉、を。
「……シシア、は…」
咀嚼し尽くしても、口から零れ出たのは結局それだけだった。
靄であるわたしに、人の言葉など、わからない。
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