R&C-薔薇と冠-
1
立ち尽くしていた。
固い石畳の道路の上で、わたしはただ立ち尽くしているしかなかった。
わからなかった。
何故ここにいるのかがハッキリしない。
わたしの「隙間」から湿り気が侵入し、体中が靄に侵略されているからだ。
心も体も虫食い穴がそこかしこにあるのだ。
侵されつくして、わたしこそが靄同然の、朧気なものになっている。
霞んだ心の中には何もない。
フィルター越しの頭の中にも、誰も、いない。
いや、うっすらと見いだせるのは、仰々しいゴーグル。わたしを撫でてくれる分厚い手袋。優しい、息。
それから、柔らかな黒髪。
それから、見える、赤い──いや、『紅い』、炎。
あとは見えない。
何も見えない。
なにひとつ、見たくない──。
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