チルチルとミチル(完)
と
俺の側から居なくなっちまうんじゃないかって…怖かったんだよい。
「あの話…本当だったようだねぇ」
「もしかして…!」
「確実なのかよ!?」
「…あぁ」
「っ…!!」
シズオは海軍に下った。
最初は俺たちだって信じなかった。
あいつが大人しく捕まってる筈がない…どうしたって建物くらいぶっ壊して逃げてると思っていた。
ティーチを追いながらもどこかの海軍基地が破壊されてないか情報を集めてたときの副産物…嫌な予感がした。
当たって欲しくなかった勘。
金の髪、青いワノ国の着物姿に無類の破壊力。
信じたくなかった。
それでも調べれば調べるほど、目を背けたくなる事実が疑問を確信に変えていく。
能力者の無効化できる人間なんてシズオ以外にいない。
俺は、こんなこと知りたくなかったんだよい。
分かっててもなぁサッチ。
俺は…もう、どうしたらいいのか分かんねぇんだ。
「マルコ…」
「…全部、話す。その為に呼んだんだよい」
「「「………」」」
最初に疑問に思ったのは探し出すまでにシズオが大人しくしている訳がないと思ったこと。
そして「破壊人形」の二つ名を持った生物兵器として噂されている新しい海軍戦力。
その容姿がシズオと酷似してること。
最後に、これを言ってもいいのか迷ったんだけどねぃ…隠してても説明し辛いから仕方なく話す。
海賊で居ることを辛く思ってたこと。
「じゃあ、自分の意志で海軍に入った…と?」
「そこまでは分からねぇよい」
「可能性の一つってやつか」
「「「………」」」
「なぁ…俺思ったんだけどさ…」
今まで俺たちの会話を聞いてるだけだったエースが口を開く。
仲間殺しではないもののもしもシズオが海軍に居るなら敵対するかもしれない状況に、あっけらかんと笑ってる。
本当に馬鹿だな、コイツは!
エースの肩を掴んで睨み付けた…ともすりゃあ覇気も出てるかもしれねぇ。
「エースてめぇ!状況分かってんのか!?」
「んー…難しいことは分かってねぇ」
「…おい、エース」
「でも、シズオ待ってんだろ?」
「は?」
俺が揺り動かすせいで落ちそうになる帽子を押さえながら笑う、俺たちの末っ子。
だって言ってたぜ?と。
俺は青い鳥(幸せ)があるこの世界で生きることを選んだんだって。
だからマルコのこと絶対待ってるってと笑う、俺たちの太陽。
ここの誰より望まれて生まれてきたくせに、ここの誰より疎まれて孤独で育ってきた筈のエース。
変わらねぇくらいどん底見てきた俺でも分かる。
生まれてきたことを出会った全ての人間に否定されるのは、どれくらい痛かったんだろうか。
親も自分自身も殺してやると言われて。
想像もできねぇ。
痛感する。
こう言うとき、コイツの強さを。
もう迷わない…そうだ。
俺が迷っていたから親父は俺を止めたんだろうよい。
サッチも、俺を殴って胸ぐら掴んでシズオを信じろと言った。
シズオが海軍に本当に入ったなら俺たちはシズオと戦うことになる…迷いがあればいくら俺でも怪我じゃ済まねぇだろう。
逆に、シズオが操られるもしくは脅されていたとしたら…どちらにしろ冷静じゃねぇ頭で突っ込むもんじゃねぇ。
破壊人形の力も未知数だしねぃ。
でっかい親父を見上げればいい顔してるじゃねぇかと豪快に笑う声に、後押しされる。
「迎えに、行くよい」
「グララララ!!出航だ!」
「「「おう!!!」」」
例え敵対しちまうとしても、ぶん殴ってでも浚う。
んで、本人の口から聞くまでは敵とか見方とかどうでもいいことにしといてやるよい。
お前は俺の…俺たちの大事な弟だ。
家族のことを信じない兄貴なんて、少なくてもここには居ねぇんだからよい。
なあ、シズオ。
俺も大切だよい…だからお前が心配だ。
…そして俺は、家族以上に…お前を。
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