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チルチルとミチル(完)


報告書の最初は島の名前。

ラ・ハクセメダにて巡回中、島の海軍最高責任者である大佐を発見。情報によれば連日島の若い女性に性的暴力を強いている様子。
住人などはそれに反論すらできない状態であり、恐らく暴力で押さえつけていたと思われる。
救助しようとするもそれよりも先に金髪の男が抵抗する女性を殴りつけようとした大佐の腕を止め、大佐の他7名の海兵が拳銃で応戦するも大佐は男に腹部を殴られ民家の壁を五枚突き破り気絶。後に海兵もそれぞれ重軽傷を追わされ、病院に運ばれ全治三ヶ月から四ヶ月と診断された。
尚、くだんの事件で大将サカズキに怪我を負わせた人物と特徴の一致する金髪の男は、手配書の顔が判明していなかった「海楼」シズオと判明。直ちに捕獲に向かい応戦するも海賊白ひげの隊長数人と合流し逃亡。モビー・ディックへの帰還を確認。
よって。
ヘイワジマ・シズオの能力者の一部無効化、及び拳銃を素手で曲げられる程の怪力を確認。力の上限または能力者であるかは未確認。
補足、写真の入手に成功した。


黒いクリップで報告書に現像してきたばかりの写真を付ける。

俺の机の中の写真の存在をもう一度思い出しながらも、こっちがいいだろうとまた思い直す。

あらら…やっぱりあっちのへそチラしてる方のが…いや。でも。


何回か脳内で繰り返してからゆっくりと立ち上がり、部屋を出る。

長い廊下をシズオの写真を見ながら進む。


俺は、彼を海軍に売ることになるんだろうか。

間違っちゃいない…そもそもシズオは賞金首でしょーが俺。

何を迷うことがある。

俺は仕事としてシズオに近づいた筈…そうでもしなけりゃ出会うことすらなかった。

そう。

私情は持ち込まないってあらら…躍起になりすぎてるか?

立ち止まって頭をかく。

俺は俺の正義で…それが例え軍の命令に逆らうことであっても迷うことはしない。

俺の正義に反する世界への危険は砕く…そう、彼のように。



コンコン…

「センゴクさん、クザンです」

「あぁ、来たか…入れ」

「はい…」



手には一枚の報告書。

心には二つの選択とそれぞれの覚悟を持ってドアを開く。

いつも期限を守らない俺がこんなに早く報告書を上げてきたのに驚いた表情のセンゴクさんが、やればできるんだからと褒めてくる。

ちょっと、俺子供じゃねぇんですから。


報告書を手渡し、見つめるその表情が険しくなることで眉間の皺が濃くなる。

書類では書かれていないことを聞かれては答える…細部まで脳内に焼き付いているシーンをただ口にする。

単調に、いつものように。



「なるほど…」

「俺に提案があります」

「ほぉ…」

「一つは白ひげと退治することになりますが、これ以上の力を付ける前に消す」

「…それは難しいな」

「もう一つは…シズオを海軍に入隊させる」



ずっと考えていた。

俺の正義の形は氷…この身の能力を手に入れる前から堅く心にあった絶対を、シズオは持ってる…と。

ただ、それが今は白ひげの仲間になってるだけ。

彼の心には譲れないものがある…ただ、それだけ。

でも、凄く尊いものだと思うんだよね…そういうのってさ。

白ひげも敵に回したくないし、これからの若い芽を摘んで自分たちの庭に植え変えれば…。


間違いなく強大な戦力になる。

彼にとっては難しいことじゃない、間違いを間違いだと言える正義はこの海軍を変えるだろう…と。

本気で思う。

俺の正義にはシズオが必要だ。

主観と客観を交えながら話せばしばらくの沈黙の後、笑われた。

え、なんで?



「…なんっすか」

「いや…」



必死な俺が珍しくて面白かったらしいセンゴクさんは、俺に一言やってみろと命令を出した。

これで正式に任務として認められた。

お前に堂々と話せる。

やっぱり俺も人間だから嘘ついたりするの嫌なんだよ…いやいや、本当に。


さて、どうしようか。

作戦を立てよう…俺の若い頃の正義の形を思い出させてもらった礼に。

町の人間から恨まれることのない立場にまで誘おう…断られたら、また誘えばいい。

力ずくでも。

あらら…俺としたことが熱くなっちまったかな?


でも、お前が本当は心底犯罪者だったなら。

抱きしめよう…凍らせて氷の時に閉じこめて、最後はそのまま砕いて散らしてやろうか。

そうしたら、俺は。

今度こそ内に火のくすぶらない氷の正義を掲げられる…かもな。

氷に閉じこめられたアイツを、どっかに飾っておくのも、まぁ悪くはないか。

あらら、自分でいうのもなんだけど怖い思考…まぁ、そうならないように祈っておくよ。


なぁ、お前はどう思う?

シズオ。

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