チルチルとミチル(完)
み
きっと俺がマルコを好きなこともマルコ自身分かってんだろ。
だからこそ今の追いかけっこが終わらねぇ訳で…あぁ、マジで今日は失敗した。
不意に触れる、手。
『っ…!』
「…やっと捕まえたよい」
『離せよ…』
「離すわけねぇだろい」
振り払おうとすれば振り払って逃げることもできる。
でも、それをしないのは。
他でもない俺自身がこれを望んでるから。
怖いけど近づきてぇ。
生ぬるい関係をぶっ壊してでも触れたい触れられたいって願う、どうしようもないな。
「…部屋、連れてくからねぃ」
『………』
無言が怖い。
話すこともないのかもしれない。
俺は臆病者だ。
もしかしたら俺の望むような言葉は貰えないのかもしれねぇ…だって俺からは行動すら起こせてねぇから。
欲しいものだけ貰って返さねぇって、そんなの狡いだろ。
廊下を歩けば、何事だろうとこっちを伺いながらも誰も声をかけてこない。
俺たちの奇行は今に始まったことじゃねぇし。
実際、俺もどうしていいのか分からねぇのに周りが対処できるはずがねぇ。
それにしても、痛ぇ。
沈黙が。
「………」
『………』
そろそろマルコの自室につく。
あぁ、今日で何かしら変わっちまうのか。
最近のおかしさは俺でも異常だと理解してる…してるからこそ、怖い。
俺は、好きだ。
でもマルコが俺を好きじゃなかったら?
問いただされるなり断られるなり、どちらにしろ気まずくなるだろう。
冷静に考えてみれば。
溜まってただけ、とか…?
『マルコ…』
「…そんなに、警戒することないだろうよい」
『………』
いつの間にか二人きりの部屋。
嫌な汗が出てきた。
こういう時に嫌になる。
臨也の野郎みてぇにこの場だけの嘘ってのも、切り抜ける為の話術も俺には思い付かねぇ。
かといって、俺にはこの手を振り払うこともできねーんだ。
怖い。
マルコが、怖い。
「…大丈夫だよい」
『っなにが』
「俺たちは変わらねぇ…そんなに」
『だから、なにが!』
「…増える、だけだろぃ」
掴まれていた手が解ける。
早く離して欲しかったのにいざ離されると惜しく感じた。
直ぐに、俺の手を包むように優しく被さってくる手に安堵した。
あぁ、やっぱり。
好きだ。
「俺は、お前が好きだよい。シズオ」
『!…っ』
「だから…」
避けられんのはちっとキツいんだよい…なんて。
なんで。
俺だって…俺が、好きなのに。
なんでそんなに辛そうな顔してんだよ、マルコ。
名前を呼ぼうと唇を開いた瞬間、船内が揺れた。
轟音と溢れた殺気に俺たちは立ち上がる。
何があったのかは分からねぇがどうやら招かれざる客が来たのは間違いねぇらしい。
「チッ…シズオ、行くよい」
『おう』
このモヤモヤは、悪ぃが八つ当たりで晴らさせて貰う。
階段を掛け上がり甲板に出ればそこには一人の男が立っていた。
俺の平和をめちゃくちゃにした、嘗て俺たちの誰もが信頼し仲間だと思っていた…黒ひげ。
『ティーチ!!』
「ゼハハハハ!久しぶりだなぁ…」
「ってめぇ、どの面下げてここに来てんだよい!」
「そんなこと言うな、俺も…来たくて来たんじゃねぇしなぁ」
『ぶっ殺す!』
交わった目線。
俺が感じたのは怒りじゃなかった。
恐怖。
どうしてだか分からねぇ…ただ、得体の知れない野郎の真っ黒な目を見て…俺の本能が警告した。
ココニイテハイケナイ。
「ゼハハ!遅ぇ」
『なっ!?』
「シズオ!!」
「貰ってくぜェ…」
不意に床がなくなった。
いや、俺の体がティーチの作った闇の中に沈んでいってる。
セルティで見慣れてる筈のそれは冷たくも暖かくもなくて、ただ分かるのは…これは存在じゃねぇ。
手をついて抜け出そうとすればその手すら闇に沈む。
恐怖からも闇からも逃れる間もなく飲み込まれる俺にマルコの手が届く前に、俺の視界は真っ暗になった。
これは闇っつーもんじゃねぇ…無、だ。
あぁ、さみぃ…。
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