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チルチルとミチル(完)
You wake the monster in me.


sideーイゾウー


掴もうとした掌をすり抜けてった、それを何よりも愛おしいと思ったねぇ。

故郷に咲く桜みたいに綺麗でさぁ。

それに微か触れたこの手から…心を焼き付けられた気がしたよ。

逃げられちまえば追いかけたくなる男心てぇやつかい。

どうしてくれんのさ、シズオ。

俺の雄を叩き起こせんのは、お前くらいだよぉ…その事、分かってんのかい?

ねぇ。



「大変だ!」

「っ何事だよい?」

「シズオが海軍に!!」



今日は嫌なことが起こる気がしたんだ…俺の感は確かなもんだったけど。

未然に防げなきゃ意味ないよねぇ。


思わず着物の袖に片腕を通す…掌に握るは愛銃。

堅さと帯びる冷たさが俺の心を冷やす。

無意識に殺気を出しちまってたのか、マルコに肩を叩かれ気がつけば報告してきた部下が気絶しちまってた。

なんだい、根性がないねぇ。

帰ってきたら鍛えなおしてやるから、今は大人しくおねんねしてるんだよぉ。



「その辺にしとけよい」

「仲間すら守れないような部下に育てた覚えはないんだけどねぇ」

「…今日は、お前の所だったか」

「あぁ、そうさ…」



無能な上司の、犠牲にしちゃあなんねぇ…知ってるさ。

部下の面倒も見きれないで何が隊長だってんだ…あぁ、そうだろう?マルコ。


俺に任せてくれるよねぇ?

そう無言で見返せば、親父に報告してくるよい…だってさ。

本当に我らが長男様は優秀だねぇ。


そうさ…止められないよ。

銃は引き金を引いたら後戻りはできないのさ。

それが例え最後の一発でも、ね。


そう。

止めたって無駄さぁ…俺の銃口はもう熱を持っちまってるからねぇ。

早く、早く。

鉛玉という熱情を…敵さんの眉間にぶち込みたくて仕方ない…って、さ?

疼いてんだよぉ。



「…待ってな、海軍」



俺の宝を奪おうなんて気ぃ二度と起こせないようにしてやるさ。


俺は船を泊めていた入り江から走って海軍基地へと向かう。

なんだ、どうにもキナ臭いじゃないか。

どうしたってんだい。



ドォンッ…

「っ…!!」

「きゃああっ!?」

「奇襲かっ?」

「基地から煙が出てるぞ!」



急げ。

あぁ…俺にもしも羽があったなら…いいや、無いものねだりは良くないねぇ。

分かってはいるけどさぁ。

羨ましい。

時々、羨ましくなる。

俺の宝の横で燃える、青の存在が。

それでも…俺は二人ともが幸せなら何も言わないさね。

馬に蹴られたくないからねぇ。



「ったく、無駄に広いねぇ」

「「うわぁああっ!?」」

「!こっちか…」




悲鳴の聞こえる方へ。

破壊音の響く方へと走る。

遠くに見える恐らく乱闘の場に向かって走れば、走る程に安堵した。

人だかりと影と金に、あぁ…と笑みがこぼれる。

そうだ。

俺が焦がれた彼は、いつ何時も隙がないほど美しい男だったねぇ…。

そうさ。


シズオの後ろにいた敵の脳天に一発ぶち込む。



『!…イゾーさん!』

「加勢にきたよぉ…シズオ」

『あー…すんませんっす』



守られてるだけの姫さんじゃないって、ことだね。

シズオの周りには気絶した海軍がちらほら…。


あぁ…その強さを忘れていた訳じゃないんだけどねぇ?

愛しいと思う者を守りたいと思うのは男の性だからね…そうだろう…?

その独特な俺の名前の呼び方に、酷く安堵してる自分自身に思わず苦笑する。

どれだけ。

一体俺はどれだけ必死だったんだろうねぇ。



「早く帰って、一緒に湯浴みでもしようさねぇ…」

『湯浴みって…風呂っすかっ?』

「お願い、だよぉ…無事だって、兄さんを安心させとくれよ…ねぇシズオ?」

『ぅっ…』



お願いとわざと強調して…それにきっと一度でも捕まったことに負い目を感じてるだろう。

シズオの弱い所を擽って欲望を満たす。

俺は少しだけ、ズルをする。

でも、これくらい許されるだろう?

お前のせいで嫌な汗かいちまったんだからさぁ。


いや。

こんなの言い訳…か。

怖かったんだよ。

分かっちゃいるけど、情けないねぇ。


でも、シズオ…今日は兄さんのワガママに付き合って一緒にいておくれよね。



You wake the monster in me.
(私の中の獣を目覚めさせるのは、君)



『背中流すっすよ、イゾーさん』

「おや、そりゃいいね…」

『っ!…痛くないっすか?』

「気持ちいいよ…ありがとうねぇ…」

『……(う、うなじが…すげー色っぽ…)』

「(ふふ、見てる見てる…)」


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あきゅろす。
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