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★例えば私が死んだなら
『泣くなよスクアーロ、
そんなの可笑しいじゃんか?』
…そう言ったつもりなのに、
口から漏れたのはただの浅い息。
涙を拭ってあげようとしても、
ピクピクと指先が虚しく痙攣するだけ。
せめて最期まで触れていたい、
それを察したように涙を拭い、
もう感覚もなにもない手に手を重ねる。
スクアーロはいつだって優しくて、
俺が望んだものをくれたのを覚えてる。
「ベル…」
「…ん゛……、す…く……」
ねぇ、泣かないで?
俺が我慢してんのに、
大人のお前が泣いたら台無し。
だってこればかっりはさ…、
運命なんだから仕方ないじゃん?
神様が決めた、運命。
兄貴を殺した事も、
ヴァリアーに入った事も、
お前を好きになったのも、全部。
身体を死が這いまわって血が凍る。
最期に大切な事を伝える為に、
もう出そうもない声を意地で絞り出す。
「ス、クアーロ…」
「なんだぁ?」
俺の声を聞き取るために、
スクアーロの顔が近付づく。
綺麗な銀髪がサラリと頬をなで、
思わず擽ったくて笑った。
お前の髪、大好き。
「今まで、我が儘いってごめんな」
「謝ってんじゃねぇよ、今更…」
「ごめ…、ありがと…、大、好き…」
「ああ」
「約束…、覚えてる?」
「ベル」
「躊躇わないでよ…じゃないとさ、俺…もう死んじゃうよ…?」
誰かに殺されるなんてただの屈辱、
俺はお前の手で終わりたい。
「ベル」
「んっ…」
キスの感触すら分からなくなった。
ぼやけた視覚がスクアーロを捕らえ、
やっとソレがキスだと理解する。
離れていく唇に返すキスも叶わない。
「お前は、本当にそれで良いのかぁ?まだ助かるかもしれねぇ…」
「無理だよ…、んな事、見りゃ分かるじゃん?」
視界に曇が出来て、
着々と近付く死に焦る。
死ぬのなんか怖くなかった。
だけど今は、まだ待って…
「お前…に…、スクアーロに殺され…なら、…俺は、幸せ…」
速く、速く。
月明かりに煌めく銀髪も、
涙を流す銀の瞳も綺麗な細い指も…
俺を呼ぶ重い声も…
全部、全部、持っていくから…
気持ちまで死んだりしない。
「いいんだなぁ?」
「うん…」
永く血濡れた刀がそっと心臓に添えられ、
独特の冷気と命を奪うという重い緊縛。
「スク…アーロ…」
「ベル、愛してるぜぇ…」
「俺の方が、好き…、だも…ん…」
そう呟けばスクアーロは穏やかに笑い、
ゆっくりと長い指先が頬をなぞる。
俺達の周りには沢山の敵の死体。
スクアーロは強い。
本当の意味で強い。
だから、泣いてくれるんだよね?
俺の死を受け入れたから…、
だからお前は泣いてるんでしょう?
でも、お前の考えてる事、
俺が気付かないとでも思ったの?
ゆっくりゆっくりと心臓を貫いて、
ドクドクと溢れる血が熱い。
「ぁあ゛ぁ…、ンぁ゛っ…!!」
「エロい声出すな…」
「はぁ…、い゛っ!…最低…、っ馬鹿…」
冗談が言えるくらい落ち着いてくると、
今度は変な眠気が頭を支配し始めて、
抗う力もない俺の瞼は重くなる。
暖かい、
「スクアーロ…、眠、い…」
「ああ、大丈夫だ。もう寝ろ…」
「う、ん…」
もう二度と見られない。
月も星も夜も、
俺の好きな真っ紅な血も、
何よりも、お前が恋しい。
「おやすみ…、ベル…」
そう言って前髪を掻き上げて、
手首、指先、首筋、額、目尻、頬、唇…
スクアーロは沢山のキスをくれる。
「お前はもう、何かを背負って苦しまなくていいからなぁ…」
閉じかけた目を最後に少し開ければ、
悔しくて頬を熱い涙が伝う。
「俺は、お前の傍に居てやる…」
そうやって、
いつも俺の事ばかり…
独りが嫌だって、きっとばれてる。
俺は最期までお前に迷惑をかけるんだ…
だって最期に見るたのは、
恋人が己の首筋に刀を充て微笑む姿。
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