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猫の鳴く声に、愛惜

冬真ん中、12月。

通りにあった公園の時計の針は、
二本ともちょうど真上を指していた。

かれこれ二時間近くここに居るが、
標的の動く気配は全くない。

隣で白い息と共に
盛大な溜め息が聞こた。



「寒い。」


「おう、そうかぁ…」


「…俺が寒いって言ってんの聞こえなかったわけ?可哀想な王子が凍死したらどうしよう、とか思わないのかよ…」


「う゛お゛ぉい…!!誰が可哀想だぁ?寧ろその煩せぇ口が塞がりゃ、我が儘聞かなくて済むから、ラッキーだな」


「っ、なにそれ?もういいよ!!だったら一生口聞いてやんねぇから!」


「……ああ、頼むかそうしててくれぇ」


「…」



最後の俺の言葉に有言実行とばかりに
唇をキッと結んで顔を背ける。

見た目はだいぶ大人びたとはいえ、
中身はまるで変わらない我が儘王子。

いつまでも自分中心に世界が回ってると
信じて疑わないのはどうにかして欲しい。
溜め息つきたいのはこっちの方だ…


そもそも、コレは俺の仕事であって、
ベルには関係ないのだから帰ればいい。

なのにベルは寒さで鼻を真っ赤にして、
未だに隣で頬を膨らましていた。



「先、帰るかぁ?」


「…」


「返事しねぇと分かんねぇぞ…」


「…」


「…はぁ」



面倒くさいわけじゃない。

ベルがこういう性格なのは、
もうしょうがない事なんだと思う。

寧ろそんなベルの我が儘は、
俺が可愛いと思っている所の一つだ。


コイツは唯言えないだけだろう…
“一緒に居たい”という簡単な台詞を。



「悪かった、ベル。謝るからこっち向けって…」


「…」



相変わらず黙ったままのベルは、
ただ自分の足元だけをみつめている。


そういえば、

裏返しの意味であっても、
ベルはちゃんと伝えていた…“寒い”と

気付いてやれない俺がバカなんだろう。


殴られる覚悟でベルを引き寄せれば、
珍しく大人しくされるがまま。

フワフワと散る金髪を耳に掛けて、
首筋にぐりぐりと頭を埋める。



「ベル、いい加減口開けぇ…、それとも喋り方忘れたかぁ?」


「…」



「つまんねぇだろぉ」


「…」


「いつも夜はにゃーにゃー煩せぇくせによぉ…」


「はぁ!?何言って…、……っ!!」


「……ひっかかったな」


「……うっざ…」



結局口を開いてしまったベルは、
真っ赤になって前髪の隙間から睨む。

この瞳は俺と兄貴しか知らないのだと、
ベルが言ったのを思い出す。

それを俺に許した事が、
ベルが俺を想ってくれる証拠だと思う。

その小さな頭を撫でてキスすれば、
『ずるい』と口を尖らせる。



「ずるくねぇだろぉよ」


「ずるい、バカ鮫大っ嫌い…」


「嘘はよくねぇぞぇ」


「…嘘じゃねぇし」


「そうかよ」



ふんっと鼻を小さくならして、視線を俺から正面へと戻す。

後ろから見える細い首に腕を回すと、
ベルの肩がビクリと揺れる。

俺は無意識に笑っていた。



「何笑ってんの?生意気。ってか、邪魔なんだけど…」


「寒いんだろぉ?温めてやるよ」


「うっわぁ…、臭い台詞」


「煩せぇ、ガキ」


「あ、アレ…、出てきたんじゃね?」



ベルの指差す方向には標的。

クっソ…、
ナイスタイミングだな、この野郎…



「ぶっ殺す…」


「しししっ、スクアーロ怖いッ!」


「行くぞぉ、ベル。」


「あはっ!俺、楽しくなってきたっ!」



銀色のティアラが輝いた瞬間、
俺の中から猫のようにすり抜けていく。

口端を上げて笑う表情は、
既に獲物を狩るときの笑顔。



「………ったく、しょうがねぇな」






猫の鳴く声に 愛惜

(終わったらカフェ行こー!)
(その血だらけの顔でかぁ…?)









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あきゅろす。
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