上がるスキルと好きの気持ち
夜、十一時過ぎ。
いい番組がやってなくて、ただぼんやりとテレビを見てたら、インターフォンが鳴る。
こんな時間に来るとしたらあいつしかいない。
「浩太ーっ! やっぱいるべきは心の友だよ!」
ドアを開けるとともに、和幸がいつものごとく抱きついてくる。
外は寒かったのか、Tシャツ越しに手の冷たい感触。服からは女物の香水の匂い。
そういえば、今日和幸はデートだったはず。
「何、またフラれたの? 和幸」
そう言うと和幸は、一瞬顔を歪める。
「またって言うな。お前なんか付き合ったこともないくせに!」
そりゃそうだ。だって俺はお前が好きだから。
なんて言えるはずもなく、片想い歴5年。
高一の春、同じクラスの前後のよしみで話すようになってから、ずっとずっと好きだった。
何て話しかけたか思いだせないけど、数日後に「お前と仲良くなれてよかった」なんてプレミア物の笑顔と一緒に言われたら、完全にノックアウトだろ。
その日からずっと、胸の中にしまってきた。
俺が抱いた感情は、普通では理解されないモノで。
昔よりは偏見も無くなってきたらしいけど、それでもまだ完全に消えたわけじゃない。
和幸も、その一人かもしれない。
それでも毎日毎日、和幸と過ごした時間分だけ好きになる。
膨らんでいく思いは、俺にはもう止められなくて、今にも破裂しそうなほどになっている。
「で、今回は何でフラれたの? デート行ったんだろ?」
だいたい理由は分かってるけど、はかせた方が和幸はすっきりするらしい。と言うのが今までの経験から習得したスキル。
「行ったよ。んで、いつもと一緒、『イメージと違う』って」
あ、また顔が歪んだ。
こんな顔、俺だったら絶対させないって自信、あるのに。
でも俺は男だから。男同士だから、俺はきっとこいつに、辛い思いをさせてしまう。
それでも女になりたいとは思わない。俺は、男の俺が、男のこいつを好きだから。
「和幸は和幸なのになー」
和幸は和幸、俺は俺。
そう何度も俺自身に言い聞かせて、ずっと言わないできた。
思いが通じる可能性は、限りなくゼロに近い。
それでも、恋愛は自由だから。思うだけなら……いいよな?
「やっぱ俺には浩太だけだー。浩太超好き!」
今にも泣きだしそうな笑顔。
わかってるけど、キツイ。
俺の「好き」と和幸の「好き」は、意味が違う。
何度も失恋を慰めてきてわかったのは、片想いは辛すぎるということだけだ。
「それって親友って意味? それとも別?」
「何言ってんだよ浩太。俺たち親友だろー!」
「……俺は違う意味で好き」
酔いに任せて口走る。これ以上はダメだ、と頭の中で警報が鳴り出す。
聞こえなかったみたいで助かった。まあ、聞こえなかったフリって可能性もあるけど。
きっと和幸には、俺の気持ちは重すぎる。
だからまだ、伝えちゃいけない。
和幸の弱みにつけこんで伝えるような、そんな甘っちょろい感情じゃないから。
いつか言える日がきたら。そのときは絶対、全部伝える。
「お前だいぶ酔ってんだろ、おとなしく寝ろ」
うー、と唸る和幸を引き摺って部屋まで行き、重い体を持ち上げてベッドにおろす。
ちらりと見えた筋肉のついた腹が、脳内にこびりついて離れない。
俺マジやめろよ。ここで襲ったら強姦魔だっつーの。
隠すように布団を被せると、寝息が聞こえてくる。
今まで和幸と付き合ってきたやつは、和幸のほんの表面しか知らない。
寝顔を知ってるのは俺だけ。
涙を知ってるのも、俺だけ。
「泣くほど、好きだったの?」
頬を伝う雫をそっと拭う。
また理解してもらえなくて悲しかっただろうなって思う気持ちと、和幸がフラれてよかったと思う気持ち。
本当俺は、嫌なやつだ。
和幸の不幸を、心のどこかですごく喜んでる。
「はは、俺ってサイテー」
一人むなしく呟いた言葉は、そのまま闇に消えていった。
後書き
浩太が悶えてます。
なんだか悲恋的な感じになってきましたが、最終的にはハッピーエンドになる予定なのでご安心を。
次はまた和幸くん視点です。
この二人は書きやすくて更新が早い!w
完結したら短編から移動させたいと思います。
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