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空中楼閣
冬の海岸。
青く澄んだ空のてっぺんが、大分低い位置にある。
いつもと同じ冷たい空気は、服の隙間から身体の中に入るたびにより一層冷たく感じられた。


ふと顔を上げる。
向こうのほうに空色のワンピースをきた同い年くらいの女の子がひとり。
風が吹くたびに覗かせる足は、白く、些細なことで折れてしまいそうなほど細い。
そして彼女がしようとしている行為を想像し、俺は絶句した。



向こうは断崖絶壁。波しぶきが荒々しく響いている。
恐らく彼女の瞳には、冬の荒れ狂った海が映っているだろう。
自殺――その二文字がふいに頭を過ぎる。



少しずつ、少女との距離を縮めていく。残り、五メートル。少女はまだ気づかない。
少女が足を一歩踏み出す。

「危ない!」

思わず、叫んでいた。
自分でも驚くくらい大きな声がでる。
少女は、ゆっくりと振り向く。 足と同じくらい白い顔は、顔立ちが整っていて、見たことなどないが、天使のようだと思った。
深い青に澄んだ虚ろな眼に、俺は映らない。

「なあに?」

少し間延びした声が返ってくる。全く緊張感のない声だ。

「何を……しようとしていた?」

自分でも思っていなかったような、震えた声がでた。
恐怖、なのだろうか。知らない人が死へと向かおうとしていることに対しての。

「海を眺めていたのよ」

そう言って微笑んだ少女は、くるりと海へ身体を向ける。

「『青』には昔からモノとモノを結び付ける力があるの」

少女は、ぽつりぽつりと語り出した。

「世界は『青』によって繋がれている。そうね……例えば、貴方が死んで天界へ召されたとしましょう。貴方はそこまでどうやって行くかしら?」

「天界って天国のことか?」

「ええ。苦界に住む人間はそう呼ぶわね」

「空から天使が下りて来て、フランダースの犬みたいになるんじゃないのか?」

「天使によって召される……か。それは人間のエゴの塊でできた発想ね。ああ、天界から長い螺旋階段が現れるのとか、天馬が駆けてくるとか、自身に羽が生えて飛んでいくのとかも、全て人間の想像から創られた偶像にすぎない」


この数分間のうちに、彼女に対する俺の印象が大分変わってしまった。
この少女が意味のわからない話を、何の躊躇いもなく話す姿は数分前には考えられない。


「苦界と天界は穴と穴で繋がれているの」

「アナ……?」

「そう。ブラックホールとホワイトホールのようなもの、とでも言えばお分かりかしら。全てを中に吸い込むブラックホール。それを外に掃き出すホワイトホール。宇宙空間ではかつて、二つは相容れない存在だった。それが『黒』と『白』。それを結び付けたのが『青』」

「……意味が分からねぇ」

「苦界と天界を結び付けたのも、『青』だった。……けど、もう少しでそれは『黒』に飲み込まれてしまうわ。その時には、この海も青空も消えてしまうでしょうね」


少女は遠い水平線を見つめている。この角度から表情はわからないが、悲しげなんだろうか。


「貴方はいずれ選ばれる人間だろうけれど、今日のことは忘れたほうが良さそう」


少女が言った言葉を理解するのに少し時間がかかり。
少女がにこりと微笑み、俺の額に手を置いたときには、もう既に手遅れだった。



「――今の記憶を抹消します」




波音が、頭に響いた。


後書き

お久しぶりです。
ファンタジーですね、しかも訳のわからない←
タイトルに深い意味はないと思われます(笑
ちなみに、空中楼閣の意味は

@空中に楼閣を築くような、根拠のない物事。架空の事実。
A蜃気楼。

<広辞苑参照>

今回は@の意味が強いです。
そして、小説内で少女が言っていた「天界への召されかた」は、自己論に過ぎません。
私は螺旋階段を登って行くんじゃないかなーなんて密かに考えてます。

ちなみに、これは序章。
かなり長い(?)連載が始まるかも……しれない←

最後に、長文すみませんでした!!

10.11.28.Sun

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