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短編集
例え世界がお前に優しくなくても
男前×ネガティブ



「生まれてきてごめんなさい。決して見下しているわけじゃないんです、俺なんかが人様を見下すわけがないじゃないですか、皆様を不快にさせて本当にごめんなさいごめんなさい生まれてきて、ごめんなさい。」


また始まった。
俺に抱きしめられながら超ネガティブなことを言っているこいつは生まれたときから一番近くにいた双子の弟。
いつもは無口で表情は微動だにも変わることは無いけれど俺と二人っきりのときは別。
双子と言っても性格はまったく違う。顔はまぁ似てはいるけれど体育系の俺とどちらかと言えば本を読むことのほうが多いこいつとは体格は全く違う。

俺は感情豊かなほうではあるが、弟は違う。
先ほども言った通り無口で感情をあまり表に出せなくて、さらに人見知りと言うこともあって弟に人は寄り付かない。
その上他人から見ると無表情なのが人を見下しているように見られるようで良く色んな人間にキレられていた。
兄はあんなにやさしいのになんで弟のきみはそんなに優しくないの?とまで言われたらしい。

そんなこともあって弟は高校からは俺と違う学校に行っていたのだが、兄である俺と比較されることは無くなったものの相変わらず見下しているように見られるらしい。

そんなことを言われた日は大体こいつは1人でなんとかする。1人ですべて抱え込んでこっそり泣くんだ。
最初は知らなかったけれどたまたま夕飯を呼びに行ったときに発見してからはできる限り俺が部屋に行って抱きしめている。
こいつもなんとか1人で頑張ろうと抵抗はしてきたけれど俺の粘りに負けてから社会人になった今でもこれは続いている。

俺はこいつを慰めることはできない。こいつをネガティブな言葉を止める言葉を持っていないし思いつきもしない。
…多分だけど、こいつも言葉は望んでいないと思う。
だから俺はただ抱きしめて言葉を聞く。弟も俺の背中に腕を回している。

言葉が段々止んできたと思いきや次に聞こえてくるのは嗚咽。



なぁ、泣かないで。
俺はお前の味方でいるから。



嗚咽さえも聞こえなくなって、次に俺の耳に届いたのは安らかな寝息。
俺は寝てしまったこいつから手を離す。
ごろんと転がる身体。
ここがすでにベッドの上なのが幸いだ。

目尻に涙が溜まっていて俺はその涙を舐めとった。しょっぱい。

顔は涙やら唾液、さらには鼻水までべっとりついていていつもの何も感じていないかのような顔は一変して汚い顔になっていた。
ティッシュでぐしゃぐしゃになっていた顔をふき取る。たまに唾液が喉の奥に入ったのかこいつは少し咳込んだものの寝たまま。

拭き終えてこいつの仕事柄目を腫らすなんてことがないように洗面所に行ってタオルを濡らしてこいつの目に乗せた。いきなりの冷たい刺激に無意識下に身体はびくりと動いた。

それを見てクスッと笑いこいつの頭を撫でる。俺の手に無意識のうちにすり寄ってくるのをみて、なんで同じ顔なのに性格がちょっと違うだけでこいつだけが嫌われるのだろうかと考える。


今でさえ体格差はあるものの小さいころなんて同じに等しかった。
ああ、もうそのときからなぜか弟はみんなに『異質』扱いされてたんだ。
なぜだ
表情が変わらないから?
言葉をあまり発しないから?
人と違うから?

…きっとすべてがそうだからこいつは優しくされなかった。
俺には優しい人はほとんどの人はこいつに優しくない。優しくしたかと思えば俺に悪く見られたくないからで、俺がいなかったら酷い扱いをされていたようだ。



俺がいなかったら、こいつはせめて俺と比べられることはなかったのだろうか。
お前は俺がいなかったら、幸せに生きてこられたのだろうか。


あまりに俺に対する扱いとこいつに対する扱いの差が激しく、確か中学のときぐらいにこいつにそう聞いた。
それを聞いたこいつは泣いたんだ。俺がいなかったら自分は生きていけないと。俺がいるだけで生きていけるからそう言わないでくれと言われてしまった。
泣き止んだあとなのにまた泣かせることになってしまった俺は謝罪しながら抱きしめた。


俺の見る世界とお前の見る世界は違う。双子なのに。
俺はこいつを見下しているわけではないし優越感を感じているだなんてもってのほか。
ただ幸せになってほしい。
だっておかしいじゃないか。
顔は同じなのに少し内面がちがうだけで、世界はお前を傷つける。

今のお前を見たらきっと後悔するんだろうな。だってみんなのせいで泣いてこんなにネガティブになってさ。
生まれてきてごめんなさい、とまで言わせてるんだぜ。
こいつは優しい。他人を傷つけたくないがゆえに自分を傷つける。
でもさ。
なぁ、傷も罵倒も全てを受け入れるだけ受け入れて、お前はなにが残るんだ?
なにか残ってくれるのか?

そういえばこいつの笑う顔を長らく見ていない。
泣き顔は汚いけど綺麗だから笑うとすごく綺麗。
やっぱり世界のせいか。
世界のすべてはこいつに傷つける。全然優しくなんかない。
これが神の試練?笑わせる。

俺は神なんか信じない。
信じれば救われる?じゃあ信じればこいつは救われるのか?
そんなわけがない。

かと言って俺がこいつを救えるかと聞かれればそれはノーとしか答えられない。
こいつの傷は酷くてもう治らないところまで行ってしまっているんだから。

でも。





(例え世界がお前に優しくなくても)


「俺は、俺だけはお前に優しくするから。

…世界じゃなく俺を見ておけよ。な?」


寝ているこいつがどこか微笑んでいるように見えた。



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