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短編集
さく
不良×不思議
攻め:桧谷 朔(ひのたに さく)赤髪黒目 不良系
受け:林崎 咲(はやしざき さく)栗色焦茶目 不思議系



林崎に出会ったのは入学式だった。
入学式なんて面倒くさい爺の話を聞くだけでだるかったからボイコットしようと校庭を散歩することにした。
何となく入学式は桜満開のイメージが強いが実際のところはほとんど散ってしまっている上茶色くなってしまったものばかりだ。
桜舞う中で入学式…は漫画とかの世界だけだったってことか。まぁこの高校が日にちが遅いだけかもしれないが。

歩みを進めていくと校庭の隅のほうにポツンと一本だけ寂しくある桜はおろかなにも生えていないむき出しの木があった。
その木には昭和●● 卒業記念とプレートがかけられていた。
どうやらずいぶん前に植えられたものらしい。もう枯れてしまっているんだから撤去した方が良いと思う。
そっと木に手を添える。がさがさした木の表面。上を見上げる。
近くで見てみると他の木よりも一番大きい。存在感が薄いのはきっとなにも生えてこないこの裸の状態がなんとも言えず寂し気に見えるからか。
せっかく大きいのに勿体ない。大きいなら大きいなりに派手になればいいのに。

「赤い。すごい赤い。」

「!?」

そんな柄にもないことを考えていれば真後ろから淡々とした感情の籠っていない声が聞こえたことに驚き慌てて後ろをふりかえる。そして息をのむ。
そこにいたのは声に合わせたかのように無表情な…制服がまだパリッとしているところを見る限り多分俺と同い年の男だった。
息を飲んだのは少し垂れ目がちの端正な顔立ちをしていたからだ。ふわふわな栗色の髪に日本ではたまに見る程度の焦げ茶色の目をしている。


「やっぱり赤い。」

「……あ、髪のことか?」

「うん。」

ずっと赤い赤い言っているからなんのことかと思いきや目線はオレの髪のことを見ていたので漸く気がつく。

「地毛?」

「え…いや、染めたけど?」

「なにを?」

「髪を。」

「どうやって?」

「染髪料。」

「へーそんなのあるんだ。」

…なんだこいつ。
染髪料のこと知らないのか?もしかしてこいつは一回も染めてないってことか?じゃあ地毛なのか。その栗色は。
まぁたしかに染めているにはうまくやり過ぎだろ、とかおもったけれど。

初対面の人間に対して出せる話題が特に思いつかなくてこいつもこいつで話すことはそれ以上ないようでああ言ったきり無言だ。
これ以上一緒にいる気が起こらなくて一言断りを入れてこの場を去ろうと言葉を声にする前にこいつは思い出したように先に言葉を声に出していた。

「この木はもうなにも咲かないと思う?」

俺の髪のことを聞いた癖に急にこの木のことについて質問される。
一度こいつのことを目にやり、こちらのことを見ずに木のことを一心に見ていた。俺もなんとなくまた改めて木に目を移す。
さっきと同じように相変わらず堂々としているはずなのに枝が剥き出しで他の木以上に寂し気だった。
草木が潤う春の時期なのにこの木だけを見ていると冬の時期に見える。…もう、木としての寿命は終わっている、と思った。

「もう咲かないだろ。だって春なのにこいつだけなにも生えてないじゃねェか。」

きっと俺の意見は全員が頷くことだと思う。春であるはずなのに一つ寂しく丸裸。
正しいはずだ。そう思いながらそう答えた。
その答えに間髪入れずにこいつは「咲くんだよ。」と言った。その言葉に眉を顰める。
自分の眉間に皺が寄っているのが鏡を見なくともわかった。
俺の眉間を見たのかこいつは無表情を崩しておかしそうに笑う。笑顔が男のくせに綺麗で、そう思っているのを察されるのは嫌で、あと笑われたことが少し腹が立ってまた眉の皺が増えた。
こいつはそのまま笑顔のまま「僕が言うから、咲くんだ。」とつぶやいてさっき俺がしていたのと同じように木の表面をそっと触る。
暗い焦げ茶色の木の表面の上にこいつの手が乗っているから肌の白さが浮彫になる。
そのバランスの悪い色合いがとても綺麗だ。

「ねぇ。」

「…んだよ」

「良かったらさ。」






「咲いているよ」

「咲いてないだろ」

「咲いてるって」

1年後の俺らは新しい1年生を迎える式の日に出来る限り下を見ながら校庭を歩いていた。
丁度あの日から1年。
こいつがとある提案をしてから、1年。

「俺の勝ちだ」

「ううん。僕の勝ちだよ」

さっきからなんの話をしてるかと言うと、1年前に初めてこいつと会った日にこいつから提案されたのだ。

『来年…ううん、丁度1年後にさ、この木に桜が咲いているか咲いていないかで賭けでみない?』

『…賭けに勝ったらなにがもらえるんだよ。』

『そうだね。じゃあ負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くっていうのは?』

『……乗った。』

なんで乗ったんだか。
あのときの俺は肯定の言葉を吐いたあとにそう即時に思った。いくらなんでも名前も知らない相手と訳のわからない、勝ち目のあると分かり切った賭け。
そんなくだらない賭けに乗った理由が良くわからなかったけれど今ならわかる。

「じゃあせーので目開けよう。」

「餓鬼みてぇ」

「うるさいなぁ。ずるは駄目だからね。」

「ずるもなにもないだろ。」

ずるしようにもしようがないだろ。
結果は絶対同じなんだからさ。でもそれでこいつが満足するんなら言うことを聞いてやろう。
目を閉じながらこの1年間を思い出した。
見知らぬ奴だったはずなのに同じクラスで席が前後で、しかも名前が同じ呼び方だったんだから。
あの賭け事が無かったとしてもきっとこいつとはかかわっていたと思う。
俺が思った通りこいつは不思議な奴だった。
どこかすぐにふらふらと言ったり知っているようなことを知らなかったり、かと言って頭は悪いわけではないのだから腹が立つ。
目のまえの席だからついつい世話を焼いてしまえば、クラスメートからはおかんとか不名誉な呼ばれ方として親しまれてしまった。
不良だからと言って疎遠されることもなく、喧嘩を売られることもなく、不良たちに絡まれたり同じような系統とつるむこともなく、ただ穏やかに普通の生活を送った。
中学時代の俺だったらきっとそんなものはつまらないと突っぱねたはずだけれど、きっとこいつといたから、穏やかで普通で退屈な生活が楽しいだなんて言えるようになったんだと思う。
いじられていじり返して、ただクラスの人間と普通に笑いあったりちゃんとテスト勉強したり。
そんな普通で退廃的な生活はこいつがいるだけで輝きを帯びた。

でもあの賭けがなければ、きっとこいつに友達以上の気持ちは持てなかったんだと思うんだ。
木をそっと触ったときの手の白さに不思議な魅力が溢れる雰囲気。

こいつが賭けでなんのお願いをするかはわからないし少し聞いてみたい気もするけれど、悪いけれど言わせない。

「せーの」




俺が勝ったらこう言うんだ。





咲。好きだ。

俺と、付き合ってくれってな。





あとがき
今は冬です。
受け視点も書きたいね。





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あきゅろす。
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