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透明度。
腐女子のご登場。


いきなり勢いよく扉が開きいつもなら穏やかに綺麗な奏でる鈴は激しく揺れていた。そして鈴の音が鳴り止む前に

「こんにちはー!!おじさーん、すずたんー!!」

と元気で笑顔いっぱいの、セーラー服を身に纏っていて多分中学生ぐらいの女の子の甲高い声が静かだった店内に響いた。
鈴の音と共に入ってきた女の子。
標準よりも絶対に低い身長、顔立ちはそんなに目を引くようなものはないものの一つ一つの動作が大きく可愛らしく見える。
笑顔で安住と伊藤に近寄る姿はまるで犬のようだった。
安住は笑顔で女の子を迎えたが伊藤は先ほどの眉間に皺ひとつ無かったのが嘘のように今はとんでもないことになっている。
その表情を見るからにこの女の子が嫌いなのかと思ってしまうのが普通なのだけれど一瀬はなんとなくこの子に対する扱いが良くわからないんだ、とぼんやりと思っていた。


「よぉ。華乃。彼氏くんはどうした?フラれたか?」

「ゆうくんは彼氏くんって名前じゃないのー!それにフラれていないもん!!買いたいものがあるから先に行っててと言われたので先に来たまでだいー!!」

「おお。それは悪かったな。彼氏くんの名前すぐ忘れちまうんだよなぁ、ゆうたくんだっけ?」

「もう年なんじゃないのー?ぶっぶー、ゆうまくんだってば!いい加減覚えてよー」

「ははは。もう年だからなぁ。また忘れるわ」

「むー!!すずたん!この対応どうおもう!?」

「……しらねーよ。つかすずたんって呼ぶな。」

「えーすずたんって可愛いから絶対呼び通すもん!」

「ざけんな、」

女の子は安住から華乃と呼ばれていたことから名前を知ることができたが一瀬は華乃が入ってくる少し前からぼんやりしており華乃が入ってきたときも視線を向けたりしなかった。
伊藤は華乃からの呼ばれ方に不服を覚え言い返そうとしたが華乃自身が興味が伊藤からぼんやりとケーキを食べている一瀬に向かった。

一瀬の元へと歩みを進め隣に立ったかと思えばしゃがみ、一瀬の顔を下から覗き込むようにしていた。
下からじーっと見てくる華乃に気付いているのか気付いていないのか、気にする様子もなく黙々とケーキを食べ進めていた。

普通そんな態度をとられればムカつくだろうし悲しむ女の子もいると思う。どちらにせよ一瀬に関わろうとは思わないだろう。普通な女の子ならば。
関わろうと思ってもあのチャラい女のように良い意味で関わろうだなんて思わない。
だが華乃は一瀬の態度なんか気にした様子もなく、しばらく一瀬の顔をじーっと見つめたあとに、にへらと笑った。


「ねぇねぇ」

「…」


聞こえているのか聞こえていないのかわからないが、華乃の呼びかけにやっぱり少しも反応せずにケーキを食べる手を進めている。
そして華乃もやはり気にした様子もなく話かける。


「わたしねー小野田 華乃(オノダ カノ)って言うの。初めましてー!」

「……」


自己紹介にも反応もしめさない一瀬に笑顔を変わらず絶やさず話を続けた。

「ねーねーはいくんって呼んでもいい?」

と急に言ってきた。

「……なぜに、はいくんなんだ?華乃」

安住がそう華乃に尋ねると変わらぬ笑顔で

「目が灰色だから!だからはいくん!!可愛いよねー!そう呼んでもいいー!?」

と言った。安住の質問に答えながら呼び名の許可を貰おうとする華乃。一瀬は特に反応を示さなかったがそれを肯定と受け取ったのかはいくんだー!と騒いだ。



「あのねあのね、あそこに顎鬚のあるおじさんいるでしょ?わたしその人の姪っ子なのー。でも全然コーヒー詳しくないの。しかも飲めないの。それってだめー?」


急になんでそんな話をしているのか訳がわからないが、思ったことはすぐに言ってしまうし考えていることに共感を覚えてほしいのかそれかアドバイスが欲しいのか、そのまた感想が欲しいのかはわからない。
とにかく思っていることを他人に言わなければならない性分らしい。
伊藤はここ数年の付き合いにそうわかっている。だが、珍しいな、とも思った。
確かに思ったことは言うし初対面の人間にも大分話すほうだろう。それでも自分のプライベートの当たる話を話したりはしなかった。
自分より長い付き合いであろう安住さんも驚いている。
そして安住さんはオレの方をちらちら見ている。多分小野田を辞めさせなくて良いのか、と思っているのだろうな。

確かに透が困っているようであったら止めるつもりではあるが、

別に透困っているようにも嫌がっているようにも見えねェからオレは厨房へ向かった。
安住さんが小野田用に作ったケーキとコーヒーが苦手な小野田のために用意されたオレンジジュースを取りに。

オレが厨房へと歩き出したとき少し困ったような安住さんと目があったが特に気にせず歩みを進めた。
そこまで透って分かり難いか?
多分安住さんならすぐ透がどんな人間なのかわかるだろうな。オレの本当の気持ちを見抜いた様に。

ああ、でも透のことはすぐには分かってほしくねぇな。あのころのオレの光だった透。
あのころ唯一オレを見てくれて初めての友達になって、透が転校するあの日までずっと見ていたんだ。
こう言うと若干気持ち悪いけれど、自分でも思っているけど。
安住さんにもまだ透のことを分かれるようにはなってほしくねぇな。なんてただのエゴだがな。
小野田は…。もうあいつは動物みてぇなもんだから透がどう考えているのか直感でわかりそうな気がするし別にそれでもいいと思えるのだから小野田は不思議だと思う。
それにしても、はいくんって…。
あいつのネーミングセンスはどこかから来ているのかわからねぇけどちょっとはいくんと言う呼び名が可愛いと思ってしまったのは、調子に乗るから小野田には絶対言ってやんねぇ。




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