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透明度。
嫌い?
「やぁやぁ、きみが一瀬くんかね?」

「あ…牛島先生」


南野は急な牛島の登場に眉を顰める。
この人に嫌われていると言うのもあるが自分自身この人は苦手とするタイプなのだ。
生徒を見た目や頭の出来で態度を変える教師。
しかもモテる南野が気に食わないのか嫌味ばかり言ってくるのだ。失礼ではあるが、正直早くどこかへいってほしいと願うがそんなこと牛島が南野の願いを叶うことはなかった。
メタボ腹を揺らしながら一瀬に近づいていく。不気味な笑顔付きで
先ほどまで外にいたからなのか汗まみれ。はっきり言おう。
汚らしいのだ。


「いやぁきみだね。本当に編入試験の結果はすばらしいもの…」

そう言いながら牛島が一瀬の肩を掴もうとしたのだが。

「……」

すっと一歩後ろへ下がった。表情は変わらず無表情。
たまたま後ろに下がったのかと思ったのかもう一回掴もうとしたが、やっぱりまた後ろに下がった。
これは牛島がただただ嫌なのか触られるのが嫌だったのかはわからない。
だが一瀬は牛島に触られることを拒否した。それは変わらぬ事実である。

牛島は一瀬に触られることを拒否されて顔がリンゴもびっくりな真赤さだ。
しかもここは職員室。転校生を見ている先生もいてこれを見られているのだから恥をかかされた気持ちなのだろう。。
南野も不覚にも噴出しそうになった(本人の真ん前なので必死に押さえたけれど、少し漏れてしまったかもしれない)


「……ははは、君には期待しているよ。それでは失礼する。」


牛島はひき笑いを浮かべ言い終る前には足が動いており職員室をすぐに後にしていった。

南野はそれを視線で追いかけると壁にかかっていた時計にも目がいき時間が結構経っていたことに気がつく。
そろそろ教室に向かわなくてはいけない時間だ。

とりあえず牛島のことはなかったことにして南野は一瀬に呼びかける。



「前も言ったけど一瀬くんはB組。これからよろしく。」

「…はい」

「うん。じゃあそろそろ教室向かおうか。」


南野が立ち上がり歩き出すと一瀬はそれをやっぱりゆったりとした動作で南野を追いかける

職員室の扉を開けると、



「よぅ、おはようさん」

「あ、おはようございます、粟国先生」

「今日も頑張っていこうなぁ近衛ちゃん」

この学校の保険医である粟国 雅司(アグニ マサジ)が今から職員室に入ろうとしたのか中途半端に自分の手を伸ばされていたのをゆっくり下ろした。


「さっき牛島先生がすごい勢いで走り去っていったけどどうしたん?」

「え、えっと…。」


南野は粟国のことを素直に憧れていた。牛島から嫌味言われているときさり気無く助けてくれたり教師としてのイロハを教えて貰ったりしてくれる後輩思いの優しい先輩だと思っている。
牛島のことは話したら長くなってHRに間に合わなくなりそうでどう答えていいのかわからなくて口籠ってしまう。

粟国は目線を隣の…一瀬へと移した。
南野に穏やかな笑みを向けていたのを一変させて冷たい表情で声で厳しく言葉を投げかける。



「ああ。来たんや。よかったわ。お前が遅刻していたら俺の評判落ちてまうから」
と言った。


粟国は今は亡き一瀬の父親の親友。一瀬は故あって粟国が勤務しているこの高校に転校して通うこととなったのだ。

南野は最初一瀬に対する扱いのひどさに驚いた。
いつも自分には穏やかに話してくれる先輩が親友の息子にとても冷たく接するから
今でも十分驚いてしまうけれど…さっきまでとても穏やかに自分に話しかけていたのに急に一瀬にのみ何故か態度を急変させるのだ。
理由を聞いても曖昧にはぐらかされて終わってしまい結局聞けずじまいだ。
生徒にも穏やかで少しなにを考えているのかは掴めないが、やはりこう言う雰囲気にはならずおもしろい人なのだ。


一瀬は気にしていない様子でのんきに粟国の後ろにある窓の外をぼーっと見ていた。
最初から粟国に興味を持っていないかのように。
それに対して怒るでもなくふん、と鼻で笑い一瀬を冷たい目で睨んだ後に南野に対して。


「近衛ちゃんに迷惑かけんなや?……じゃあな、近衛ちゃん頑張って」

「え、あっはい」

ころっと態度を変え職員室へと入っていった
南野は少し一瀬の様子をちらっと見たがやっぱり気にしてなさそうにぼんやりしていた。
粟国の一瀬に対する態度が酷く怒るべきことなのかもしれないが、家庭の事情な上被害者立場の一瀬が気にしていない様子なのでツッコむべきことではないのか、と考えてしまう。
とりあえず今は教室へ向かうために足を進めた。

なぜ粟国は他人である自分には優しくて親友の息子である一瀬にはすごく冷たいのだろうか、と首を傾げる。
何時かは必ず粟国にこのことを聞こう、おせっかいかもしれない。でも…可能性は恐ろしく低いけれど、一瀬くんが俺と同じ道をたどるかもしれない。
俺と同じような思いは、もう絶対に誰にもさせない。させるものか。
もし粟国先生になにも答えを得られなかったとしても何があろうと俺は一瀬くんの、生徒の味方でい続けるんだ。
あの時の俺を信じてくれた有村先生のように…。胸に手をやり決意を改めた後一瀬に笑いかけながら教室へと向かって行った。



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