忠犬の日常
会長様と一緒2
「にしてもお前、よく会長が、出てくるって分かるよな」
耳を塞ぎ、さっきまよりは少し大きい声で竜ちゃんは言う。
おかげでこの歓声の中でも聞き取りやすい。
「あ〜、俺大事な人の気配とか、足音とか、匂いとかは記憶してるっていうか、なんていうか。・・・まぁそんなんで分かるから」
うわぁ、自分で言ったことだけど、変態くさかったかな〜
少し言って後悔した。
やはり、というべきか竜ちゃんと彩先輩は少々苦笑い。
「犬っぽいね、そういうとこ」
歓声が治まりだして、耳から手を話して先輩は控えめに言った。
・・・犬っぽくしたつもりもするつもりも無いんだけどな〜
「まぁ、犬ですしね、俺」
ステージに立つ飼い主を横目で見つつ聞こえるかも分からない声量でポツリとこぼした。
そこで会話は一旦終了した。
ステージで彼がマイクを構えたからだ。
とたんにホールが静まりかえる。
・・・うん、やっぱりあの人には主役的立場がよく似合う。
普段より増して輝いて見える。
「・・・生徒会長の月居那凪だ。」
ホール内に凛とした声が響く。
「お前ら・・・休みボケしてんなよ?」
彼は不敵な笑みを浮かべながら続ける。
「今年度も俺ら実行委員でこの学園を盛り上げてくから、お前らは精一杯宮無を満喫しろ!・・・以上!!」
言い終わるとすぐにステージ袖に捌ける那凪さん。
ホールにまた歓声が飛び交う。
会長としてはよくても、新学期の挨拶としてはどうなのだろうか。
・・・まったく。毎度のことだけど、この熱気には呆れるな〜
俺の飼い主様は演技がお上手なようで。
再び耳を塞ぐ。楽しそうで何よりだけれど。
さて、俺の傍では・・・同じく耳を塞いでいる二人が何とも言えぬ表情をしている。
最初に口を開いたのは竜ちゃん。
「あの人完全に楽しんでるよな・・・つか、お前の大事な人は一体どうなってんだよ」
俺らから少し離れたところで貴祐さんと話す那凪さんを気まずそうに見てから言った。
(どうなってる、とは何ぞ。)
「そうだね・・・あの人の性能は謎だね。緋乃君、頑張ってね」
彩先輩からは同乗のようなものが含まれた言葉をもらってしまった。
いや、謎ではないよね、超高性能ではあるけれど。
「・・・まぁ、俺、あの二人が大好きですし、何をしてようが、何をされようが大事ですよ」
そんな二人に俺は、答にならないそんなセリフしか返せなかった。
だって、これが今の俺のあの二人に対しての全てだから。
そんな俺に先輩と竜ちゃんは何も言ってこなかった。
(でもちょっと司会の子がかわいそうだから少しは抑えてほしいな・・・)
なかなか静まらないホールに半泣きになりつつ
「静かにしてください!!」
と、呼びかける司会を見て切実に思った。
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